「大丈夫です。自分で上がれますから。もう遅いので、お先に休んでください」島田香織は陸田健児の目に宿る優しさに少し居心地が悪くなり、目を伏せて、心を落ち着かせた。
彼女は本当に陸田健児に時間を無駄にしてほしくなかった。
陸田健児は島田香織が彼から距離を置きたがっていることに全く気付いていないようで、優しく微笑んで「わかりました」と言った。
島田香織が顔を上げると、思わず陸田健児の深い愛情に満ちた瞳と目が合ってしまい、彼女は顔を逸らして「おやすみなさい」と言った。
「おやすみなさい」
陸田健児は手に持っていた花を島田香織に渡しながら、優しく言った。
島田香織は頭がぼんやりとしたまま、マンションの入り口まで歩き、少し躊躇してから振り返って陸田健児を見た。
彼はまだ同じ場所に立っていて、街灯の光が彼の顔を照らし、その魅力的な涼しげな目は笑みを湛えていて、思わず見入ってしまうほどだった。