もう遅い時間で、病院には人影もまばらだった。
藤原航は車を運転しながら、写真に写っていた島田香織と陸田健児が楽しそうに話している様子を思い出し、胸の中に不快感が広がった。
車を止めた時、気づけば島田香織のマンションの前に停まっていた。
島田香織に言いたいことが山ほどあったが、突然、見覚えのある車が横を通り過ぎ、半開きの窓から中に座っているのが陸田健児だと分かった。
その時、島田香織はロイヤルホテルの1階でゆっくりとワインを飲んでいた。
島田香織という人は、恨みを必ず返す性格で、今日は一日中撮影をしていて、やっと時間ができたところだった。
奈奈さんはスーツ姿で優雅にエレベーターから出てきて、島田香織の側まで歩いてきた。
「島田お嬢様」奈奈さんは島田香織の横に立ち、恭しく声をかけた。
「座って」島田香織は向かいの椅子を指さした。
「ありがとうございます」奈奈さんは島田香織の向かいに座った。
しばらくすると、ウェイターがステーキを2人分運んできた。
奈奈さんは携帯を取り出し、動画を開いて島田香織に見せながら言った。「岡田雪はもう部屋に入りました」
島田香織は携帯を受け取って確認し、満足げに頷いた。
最後の一切れを食べ終わると、島田香織はおしぼりで手を拭い、奈奈さんを見上げて言った。「よし、サプライズを見に行きましょう」
二人が入室した時、岡田雪はまだ眠っていた。
世間では岡田雪は純粋で可愛いと言われているが、彼女のファンは知らない。彼女にはパトロンが6人もいることを。
島田香織はコップ一杯の水を岡田雪の顔にかけた。
岡田雪は頭が痛くて仕方なく、ぼんやりと目を開けた時、顔に感じた冷たさに驚いて悲鳴を上げた。
「誰よ、頭おかしいの!」岡田雪は罵りながら起き上がり、水が顔から服の中まで流れ落ち、惨めな姿だった。
岡田雪は手で目を拭い、顔を上げると島田香織の姿が目に入り、なぜか心虚になって言った。「あ、あなた誰?なんで人の部屋に勝手に入ってくるの?」
「私が誰か分からない?」島田香織は口元に笑みを浮かべながら岡田雪を見つめ、奈奈さんが調べ上げた岡田雪が自分を陥れようと人を雇った証拠写真を投げつけた。「まだ私が誰か分からない?」