「香織」陸田健児は島田香織の言葉を遮り、その美しい涼やかな瞳には心配の色が浮かんでいた。
島田香織は不思議そうに陸田健児を見つめ、眉をひそめながら尋ねた。「うん?」
「『でも』って言わないでくれないか?」陸田健児は唇を噛んで、続けて言った。「君からの優しい断りは受けたくないんだ!」
島田香織の笑顔が一瞬凍りついた。
彼女はこれまで、陸田健児は単に自分に好意を持っているだけで、自分を追いかけるのも藤原航の元妻だからだと思っていた。だから、陸田健児が本当に自分のことを好きだとは考えもしなかった。
彼女が陸田健児と過ごしたこの期間、気分が悪い時は彼が寄り添ってくれた。
病気の時も、彼が病院に連れて行き、自ら粥を作ってくれた。
たとえ陸田健児が本当に彼女のことを好きだとしても、彼女は本当に恋愛をしたくなかった。
彼女は陸田健児が良い人だと本当に思っていた。ただ、二人は合わないだけだった。
「僕たちが合わないって言いたいんだろう」陸田健児は少し諦めたように言った。
島田香織は陸田健児の言葉を聞いて、目を伏せながら言った。「健児くん、あなたが私の言いたいことを分かっているなら…」
「僕がいつ君のことを好きになったか、知りたくないの?」陸田健児は再び島田香織の言葉を遮り、彼女から目を離さずに見つめた。
島田香織は少し驚いて、何も言えなかった。
「そんなに長くないんだ。11年前のことさ」陸田健児は島田香織を見つめながら、昔の彼女を思い出すかのように言った。「僕の両親が僕を君の家に連れて行ったんだ」
島田香織は「11年前」という言葉を聞いた瞬間、少し驚いた。その時、彼に会ったことがあっただろうか。
「あの年、僕が誘拐された後、奴らに足を撃たれた。君のお父さんが治療してくれたんだ」陸田健児は過去を語りながら、目に星が輝いているかのようだった。続けて言った。「あの時、僕はもう二度と立てないと思っていた。でも君が励ましてくれた。あの時から、僕は君のことが忘れられなくなったんだ」
陸田健児の言葉を聞いて、島田香織は彼をどう断ればいいのか分からなくなった。彼女は陸田健児を見ながら、まるで何年も前の自分を見ているかのようで、断りの言葉が喉から出てこなかった。