275 彼女を諦めない

陸田健児は藤原航の言葉を聞いて、思わず苦笑いを浮かべた。

藤原航はどれほど自負心が強いのか、彼が島田香織を好きなのは、ただ藤原航に対抗するためだと思っているのか?

陸田健児は冷笑して、一字一句はっきりと言った。「藤原、今言っておくが、俺が先に彼女に出会ったんだ。」

陸田健児は藤原航とこれ以上争いたくなかった。島田香織に見られるのが心配だった。

そう言って、陸田健児は藤原航に冷たい視線を送り、その場を去った。

藤原航はその場に立ち尽くし、陸田健児の背中を見つめながら、表情は一層暗くなった。

島田香織は十一年前から自分のことを好きだった。その頃、陸田健児なんて存在しなかったのだ。

藤原航はそう考えながら、眉間にしわを寄せた。

十一年前、自分のことを好きな女性は多かったが、島田香織のようにこれほど長く好きでいた人はほとんどいなかった。

藤原航が最も気になっているのは、なぜ島田香織が自分を好きになったのかということだった。彼女を知る限り、恋愛に執着するタイプではなかったはずだ。

そうでなければ、あの時、記憶を消してほしいなんて頼まなかったはずだ。

藤原航は駐車場へ向かって歩き出し、最後は自分のマンションに戻った。今の彼がすべきことは、島田香織に協力することだった。

陸田健児は郊外の山でレース大会に参加し、予想通り優勝を果たした。

車がゴール地点に停まると、レースを観戦していた群衆が一斉に集まってきて、彼の前で歓声を上げた。

しかし、この喜びの全ては彼とは無関係のように感じられた。胸が締め付けられるように重く、大きな石が乗っているかのように息苦しかった。

高橋剛は笑顔で近づき、車のドアを開けた。陸田健児がヘルメットを脱ぐと、その目には冷たさと無関心が浮かんでいた。

この頃、陸田健児は時々ここに来てレースに参加していたが、気分も良さそうだった。しかし今日は、また以前のような様子に戻っていた。

世間で言われている陸田健児の謙虚な紳士像は、ただ若い女性たちの期待に応えるためのものに過ぎなかった。

「陸田さん、今夜は優勝おめでとうございます。これが賞金です。」高橋剛は百万円の入ったアタッシェケースを陸田健児の前に差し出しながら笑顔で言った。

陸田健児はアタッシェケースを一瞥し、寂しげな表情で「いらない。持って帰って分けてくれ」と言った。