陸田健児は島田香織をまっすぐ見つめ、真剣に再度尋ねた。
「陸田さん、私は彼のことをそれほど好きじゃないの」島田香織は陸田健児を見つめ、真剣な表情で言った。「恋愛したくないの、本当に」
そう言って、島田香織はハンドバッグを見下ろし、それを陸田健児の前に差し出しながら、一言一言はっきりと言った。「結納金はいりません」
陸田健児は島田香織の言葉を聞いて、少し驚いた様子で、島田香織と藤原航が再婚するということを思い出し、しばらく躊躇してから尋ねた。「再婚するんじゃないの?」
島田香織は少し目を伏せ、静かに言った。「物事は、表面上見えているほど単純ではないの」
島田香織の言葉を聞いて、陸田健児は何かを理解したようで、目に笑みを浮かべながら言った。「つまり、彼と再婚する気はないんだね」
「陸田さん」島田香織は目を上げて陸田健児を見つめ、真剣な表情で言った。「私はあなたに相応しくないの、私は…」
「今日、南区に行くんでしょう?急いでいるなら、私は先に行くよ」陸田健児は躊躇なく島田香織の言葉を遮った。彼は彼女が何を言おうとしているのか分かっていたが、聞きたくなかった。
彼にとって、島田香織が本気で藤原航と再婚する気がないと確認できれば、まだチャンスがあるということだった。
部屋には島田香織一人が残され、彼女はソファに座って呆然としていた。夢の中の出来事を思い出し、心が乱れていた。携帯の着信音が鳴るまで、そんな思考が続いていた。
島田香織は着信表示を見て、「奈奈さん」という文字に目が留まった時、やっと自分がすべきことを思い出した。
「奈奈さん、フライトを午前10時に変更してください」島田香織はこめかみを押さえながら、疲れた様子で言った。
「はい、島田お嬢様。朝食を既に注文しておりますので、すぐにお届けいたします」奈奈さんは非常に気配りよく答えた。
島田香織は適当に返事をして電話を切り、ふと目がそばのハンドバッグに留まった。
陸田健児がこれは結納金だと言ったことを覚えていた。手で軽くバッグを開けると、中の一万円札を見て、思わず口元が緩んだ。
しかし藤原航のことを思い出すと、顔の笑みが凍りつき、落胆したように目を伏せた。
島田香織は簡単に身支度を整えると、直接空港へ向かった。