客たちは藤原航の動きを見て、誰も声を出す勇気がなく、何人かは携帯を取り出して動画を撮ろうとしていた。これは大ニュースになるに違いない。
しかし陸田健児は藤原航より先に壇上から降り、直接島田香織の前まで走っていった。
「香織」
周りには大勢の人が立っていたが、陸田健児は島田香織の傍らに立ち、その美しい桃の花のような目に笑みを浮かべながら、静かに島田香織を見つめていた。その眼差しは水が滴るほど優しかった。
彼はそうして笑いながら、何も言わなかったが、すべてを語っているようだった。
島田香織は陸田健児の目を見る勇気が少し出なくて、軽く目を伏せていた。
突然、遠くから悲鳴が聞こえた。
皆が声のする方を見ると、藤原おじいさんが気を失って倒れており、藤原執事が医者に連絡を取っているところだった。