「島田香織じゃない!林桃子よ!」
前列に座っていた来賓の誰かが、そう叫んだ。
その時、スポットライトが林桃子の顔に当たっていた。
スクリーンにも林桃子の顔が映し出されていた。
「本当に林桃子だわ!今日、藤原社長と結婚する人が林桃子だなんて!」
「林桃子って藤原社長の初恋の人じゃない?」
「もしかして、この結婚式は藤原社長と林桃子の式なの?」
「なるほど、だから島田家の人があまり来てないのね」
会場は既に騒然となっていた。
花嫁は島田香織ではなかった。
この事実に会場の人々は驚き、陸田健児も驚いていた。ただ藤原航だけが静かに立っていた。
下で座っていた島田香織は、陸田健児が今回来るとは思ってもみなかった。
彼女は既にはっきりと言っていた。
藤原航とは絶対に結婚しないと。
なぜ陸田健児は今日現れたのか?
「陸田君」島田香織は呼びかけた。
島田香織の声は大きくなかったが、陸田健児は心が通じ合うかのように、振り返るとすぐに島田香織を見つけた。
島田香織は今日、黒いロングドレスを着て、髪を高く結い上げ、金縁の眼鏡をかけていた。
眼鏡をかけた彼女は普段とは違う雰囲気で、優等生のような印象を醸し出していた。
だから下の来賓たちが彼女に気付かなかったのも無理はない。
陸田健児はすぐに状況を理解し、島田香織の方へ向かって歩き出した。
藤原航も同様に島田香織を見つけ、その漆黒の瞳が微かに揺れたが、何を考えているのか誰にもわからなかった。
島田香織の隣に座っていた人がすぐに彼女だと気付き、驚いて声を上げた。「島田香織さん!」
全ての視線が島田香織の顔に集中し、周りの人々は騒々しく議論し始めた。
島田香織はその場に立ち、壇上の藤原航の顔を見つめ、狡猾な笑みを浮かべ、赤い唇を開いて無言で二文字を告げた。「ざまあね!」
藤原航の表情は少しも変わらず、下の騒ぎを見ながら、無言で言った。「君が楽しければいい」
島田香織は藤原航の口の動きを見て、表情が急変した。
藤原航は隣にいるウェディングドレス姿の林桃子の顔を見て、冷淡な様子で尋ねた。「なぜここにいるんだ?」
林桃子の笑顔は一瞬で凍りついた。彼女は藤原航の冷たい表情を見て、胸に不吉な予感が走り、わざと可哀想そうに言った。「これは、島田香織さんに言われてやったことなんです!」