298 二重保険が欲しい

島田香織は資料を見ながら、葉山蘭子の野心に感心していた。

葉山蘭子は元々ただの一般的な部門マネージャーだったが、藤原新が女好きだと知り、こっそりと彼のベッドに潜り込んだ。

葉山蘭子は藤原新の周りに女性が絶えないことも知っていたので、妊娠が分かった時、すぐに海外に渡り、密かに子供を産んだ。

もちろん、葉山蘭子は藤原新との連絡を一切取らず、子供を連れて帰国後、その子を芸能界に送り込んだ。

葉山辰夫が有名になってから、葉山蘭子は涙と鼻水を垂らしながら藤原新の前に現れ、子供を産んだことを訴えた。

葉山辰夫は私生児で、藤原新も私生児がいることを人に知られたくなかったため、ただ葉山辰夫の芸能界での道を少し開いてやっただけだった。

夜の8時、島田香織が個室に入ると、葉山蘭子が中に座っているのが見えた。

葉山蘭子は40代とはいえ、30代のように若々しく保っており、きちんと座って、濃紺のロングドレスを着て、薄化粧で、耳飾りやネックレスは一目で高価なものと分かった。

島田香織が葉山蘭子について調べていなければ、どこかのお金持ちの奥様だと思ったかもしれない。

島田香織は葉山蘭子の向かいに座り、軽く微笑んで、「葉山さん、お噂はかねがね伺っております」と言った。

葉山蘭子は島田香織を見て微笑みながら、優しい声で「島田お嬢様が私にお会いになりたいとは、身に余る光栄です」と言った。

葉山蘭子の声は柔らかく弱々しく、少し甘えた感じはあったが不快感はなかった。

給仕が和食を運んできて去った。

島田香織はお茶を一口飲んでから、「葉山さんのような賢明な方なら、私がお呼びした理由はお分かりでしょう」と言った。

葉山蘭子は水を一口飲み、コップを元の位置に戻してから、艶やかに微笑んで言った。「島田お嬢様が藤原家の結婚式でなさったことは、世間の知るところです。ただ、私が不思議に思うのは、藤原航が私を訪ねてきて、ビジネスの話をしたいと言い、藤原家に対抗するのを手伝ってほしいと言ったことです」

島田香織は何も言わず、ただ軽く微笑みながら葉山蘭子を見つめた。

「これは奇妙なことですね。藤原航は藤原家の人なのに、藤原家に対抗しようとするなんて。島田お嬢様が今日私にお会いになりたかった理由も、同じことではないでしょうか」