296 下心

藤原おじいさんは冷静を取り戻し、傍らに立っている藤原執事を見つめながら言った。「島田家は私がやったことを全部知っているようだ」

藤原執事はすでにこの結果を予想していたが、驚いたふりをして言った。「ご主人様、これからどうなさいますか?」

藤原おじいさんは島田家を辱めると口では言っていたが、今のところ具体的な計画はなく、ため息をついて言った。「しばらくの間は、島田家の出方を待つしかないだろう」

「それは、つまり……」藤原執事は躊躇いながら尋ねた。藤原おじいさんがこれほど受け身になるのを見るのは初めてだった。

以前の藤原おじいさんは、どんな状況でも先手を打っていたのだ。

「林桃子を呼んでこい」藤原おじいさんは冷たい表情で言った。

昨夜の結婚式で、花嫁が島田香織から林桃子に変わったとはいえ。

今は島田家に手が出せないし、島田家に仕返しもできない。だから林桃子に八つ当たりするしかない。

できることなら、林家の姉妹二人に仕返ししたいところだった。

しかし藤原おじいさんは今は林杏に手を出すつもりはなく、林桃子だけを呼びつけることにした。

島田香織は知らなかったが、藤原おじいさんは今でも別の策を練っていた。

島田香織は今は全く気にしていなかった。今や世間の評判は藤原家を嘲笑うばかりで、しかも彼女は藤原航から渡された秘密の切り札も持っていた。

島田香織の今の心境は複雑だった。

過去に起きたことは思い出せないものの、藤原航が渡してくれた契約書には確かに自分の筆跡があり、そこに書かれていた内容は信じがたいものだった。

もしこの契約書に書かれていることが全て真実なら……

島田香織が心を乱していたとき、携帯が鳴った。島田根治からの電話だった。

島田根治と江田景の二人は今、南区に到着していた。以前の発言で藤原家を衆矢の的にしたとはいえ、まだ気が収まらなかった。

藤原のじじいめ、業界の古株は皆あいつが善人でないことを知っている。今回は島田家を切り離したとはいえ、藤原のじじいがこの件を簡単に済ませるとは思えない。

藤原のじじいは陰湿な手を使うのが大好きだ。もっと警戒しなければならない。

島田香織は藤原のじじいが彼女を陥れた件を隠していれば、父は知らないと思っていたが、父は単に香織を心配して言わなかっただけだった。