夕風が涼しく、島田香織はイブニングドレスを着ていた。ショールを羽織っていたものの、少し寒さを感じていた。
今、庭園は静かで、島田香織は賑やかなパーティー会場を見つめながら、自分がそこに馴染まないように感じていた。
彼女はジュースを一口飲んで、ここでしばらく静かに過ごしてから、また中に戻ろうと考えていた。
偶然、花壇に潜り込む子猫を見かけた島田香織は、近づいて地面にしゃがみ、子猫を誘い出そうとした。
そのとき、道端から足音が聞こえてきた。
島田香織が立ち上がって離れようとした瞬間、見覚えのある声が聞こえた。
「藤原さん、用事がありますので、先に失礼します。」
島田香織はちょうど庭園のローマ柱の一つの後ろに立っていて、人影は遮られ、外の人が誰なのか見えなかった。
島田香織は噂話を聞く興味はなかったが、立ち去ろうとしたとき、先ほどの声が陣内美念の従兄の陣内隆だと気づいた。
江田家に現れた藤原さんといえば、藤原昭子に違いない。
島田香織は黙ってローマ柱の後ろに立ち、藤原昭子の優しい声を聞いていた。
「陣内さん、先日のことは本当に申し訳ありません。わざとスーツを汚したわけではないんです。新しいスーツを買っていただきましたので、どうかお気になさらないでください。」
島田香織は眉を上げた。藤原昭子がこんなに優しい声で話すのを聞くのは初めてだった。
「藤原さん、そこまでお気遣いなさらなくても。些細なことですから。藤原さんの足も良くなったばかりですし、長く立っているのは避けたほうがいいでしょう。私は用事がありますので、中に戻ります。」
「陣内さん、私のことを心配してくださっているんですか?」
「両家は旧知の仲ですから。」
「陣内さん、最近お見合いをされているんですか?」
「藤原さん、何がおっしゃりたいのでしょうか?」
「陣内さん、私たちの家族はお互いをよく知っていますし、私の母も最近私にお見合いを勧めているんです。私たち二人とも見合い中なら、協力し合うというのはいかがでしょうか?」
島田香織は藤原昭子の言葉を聞いて、思わず笑いそうになった。
藤原昭子がいつからこんなに恥ずかしがり屋になったのか。以前は女山賊のように、好きな男性に直接飛びついていたのに。
「藤原さんのご好意は嬉しいのですが、そういったことは誤解を招きやすいものです。」