島田香織は陸田健児と一緒に宴会場に入ると、周りの人々の視線を感じ、彼らの噂話も微かに聞こえてきた。
陸田健児は島田香織の耳元に近づき、小声で言った。「みんな、僕たちがとても似合っていると思っているよ。」
島田香織は前方をまっすぐ見つめ、陸田健児とそんな話をする気も起きなかった。
陸田健児は島田香織を連れて江田純の方へ向かった。江田純はこの宴会の主役だった。
「江田若様、お久しぶりです。」
「江田若様、お元気でしたか?」
陸田健児と島田香織は続けて江田純に挨拶をした。
江田純は藤原航と仲が良く、陸田健児と島田香織が手を繋いでいるのを見て、笑顔が少し固くなった。
「陸田若様。」江田純は陸田健児に簡単に挨拶を返し、最後に島田香織の顔に視線を向けた。「島田お嬢様、お久しぶりです。」
以前、SNSで陸田健児と島田香織が付き合っているという噂があったが、江田純はそれが単なる噂だと思っていた。彼は藤原航が島田香織のことを好きだと知っており、内心では島田香織と藤原航が一緒になることを願っていた。
江田純は表面上は笑顔を浮かべていたが、心の中で思わずため息をついた。
江田純はその場を離れようとしたが、陸田健児の声が聞こえた。
「藤原若様。」
藤原航はもう一杯お酒を取りに行こうとしていたが、呼ばれて振り向くと、島田香織が陸田健児に手を握られているのが目に入った。
陸田健児は意図的に彼の前で見せつけるかのように、島田香織の手をさらに握り締めた。
その時、藤原航は胸に大きな石が乗っているような重圧を感じ、息苦しくなった。
彼は心が痛くて窒息しそうになり、島田香織を見上げたが、彼女の視線は別の場所に向けられており、まるで彼が存在しないかのようだった。
陸田健児は一歩前に出て、藤原航の島田香織への視線を遮った。
島田香織も陸田健児の行動に気付き、今は藤原航に会いたくなかったので、江田純に笑顔を向けて言った。「江田若様、お忙しいでしょうから、私たちは他の場所に行かせていただきます!」
そう言って、島田香織は陸田健児の方を見た。「少しお腹が空いたわ、あなたは?」
「ちょうど良かった。僕もそうだよ。あっちで何か食べようか。」陸田健児は立ち去る際、意味深な眼差しを藤原航に向けた。