311 お似合い

陸田健児は軽くキスをしただけで、すぐに離れ、島田香織の顔を見つめながら「すまない、我慢できなかった」と言った。

島田香織は窓の外に目を向け、手を引っ込めて膝の上に置いた。陸田健児にキスされた手の甲が、とても熱く感じられた。

その熱は血液とともに全身に広がり、島田香織は車内が暑く感じられた。

島田香織は先ほど陸田健児が手の甲にキスをした場面を忘れようとしたが、忘れようとすればするほど、より鮮明に思い出されてしまった。

島田香織は手の甲を見下ろし、陸田健児のキスの跡を拭い取りたいと思った。

車がゆっくりと停車し、島田香織はようやく江田家の門前に到着したことに気付いた。

島田香織が窓の外の着飾ったセレブたちを見ていると、気が付いた時には、陸田健児が隣のドアを開け、紳士的に手を差し出して、彼女の手を取るよう促していた。