陸田健児は軽くキスをしただけで、すぐに離れ、島田香織の顔を見つめながら「すまない、我慢できなかった」と言った。
島田香織は窓の外に目を向け、手を引っ込めて膝の上に置いた。陸田健児にキスされた手の甲が、とても熱く感じられた。
その熱は血液とともに全身に広がり、島田香織は車内が暑く感じられた。
島田香織は先ほど陸田健児が手の甲にキスをした場面を忘れようとしたが、忘れようとすればするほど、より鮮明に思い出されてしまった。
島田香織は手の甲を見下ろし、陸田健児のキスの跡を拭い取りたいと思った。
車がゆっくりと停車し、島田香織はようやく江田家の門前に到着したことに気付いた。
島田香織が窓の外の着飾ったセレブたちを見ていると、気が付いた時には、陸田健児が隣のドアを開け、紳士的に手を差し出して、彼女の手を取るよう促していた。
島田香織は先ほど陸田健児が手の甲にキスをした場面を思い出し、まぶたを少し伏せながら、ゆっくりと彼の手のひらに手を置いた。
次の瞬間、島田香織は陸田健児が彼女の手をしっかりと握っていることに気付いた。
彼の手のひらはとても温かかった。
彼女はその温もりに溺れそうになり、抜け出せなくなっていた。
島田香織は心が乱れ、手を引っ込めたかったが、陸田健児があまりにも強く握っていたため、彼に導かれるままに中へと歩いていくしかなかった。
今日は江田家が主催するパーティーで、来場者は皆安川市の社交界の人々で、互いによく知っている間柄だった。
陸田健児と島田香織が現れた時、全員の視線が彼らに向けられた。
「まあ、二人は本当に付き合っているのね」
「前の噂は本当だったのね!」
「今になって思えば、島田香織と陸田健児って実によく似合うわ!」
「一方は映画界の帝王で、もう一方は女王様、それに二人とも家柄も釣り合っているわ」
「そうそう、二人が並ぶとすごくカップル感があるわね。以前、島田香織が藤原航と一緒にいた時は、藤原航の冷たい表情で島田香織が凍えてしまうんじゃないかって心配だったわ!」
「今思えば、島田香織が藤原航と離婚したのは正しい選択だったわね。もし離婚していなかったら、今でも藤原家の人たちにいじめられていたかもしれないわ!」