353 失業した

林楠見は島田香織が藤原航に凍傷薬を塗ってあげた時のことを思い出し、少し困ったように溜息をついた。

藤原社長のような優秀な人が、なぜこんなに恋愛に苦労するのだろう?

林楠見は困ったように溜息をつき、誘拐犯から島田お嬢様を救い出した後、彼女が自傷行為をした時のことを思い出した。その時、島田お嬢様は血まみれの藤原社長を抱きしめて、ヒステリックに泣いていた。

林楠見は目が赤くなり、うつむいて外に向かって歩き出した。今はこんなことを考えている場合ではない。藤原社長が立ち直るまでに、あの組織を何としても捕まえなければならない。

島田香織は最近仕事をしておらず、会社の方は奈奈さんがいるので、自分に休暇を与えて、しばらく家で休むことにした。

彼女は最近ゲームにはまっていて、一試合終わった後、陣内美念から多くのメッセージが来ていることに気付いた。

「香織、ネットの動画を見て!藤原航が藤原新の実子じゃないって言われてて、田中安尾って人が本当の藤原家の息子だって!」

「藤原航はどうしたの?どうして藤原家の息子じゃないの?」

「一番信じられないのは、藤原おじいさんが声明を出して、藤原航は藤原家の人間じゃないって言ったの。病院で田中安尾と取り違えられたって!」

島田香織はこれを見て、少し驚いた。彼女は困惑していた。藤原航が藤原家の人間ではないなんて?

二十数年前の病院での取り違え事件のせいで、藤原航はもう藤原家の人間ではなく、藤原新とも血縁関係がないということになった。

今やネット上では誰もが藤原航の実母が密かに子供を取り替えたと思い込み、誹謗中傷が多すぎてサイトが何度もダウンする程だった。

島田香織は眉をひそめた。藤原航のことは自分とは何の関係もない。こんなことを気にする必要はない。

藤原航の件はネット上で大騒ぎになっており、世論の方向性はあまり良くなく、藤原グループの株主たちは藤原航に説明を求めていた。

五日後。

島田香織は陣内美念とプライベートレストランで食事の約束をしていたが、入店するなり世間を騒がせている藤原航を見かけた。

島田香織の表情が一瞬固まった。彼女の視線が藤原航の顔に落ちた。藤原航は顔色が悪く、病人のように見え、以前とは全く違っていた。