藤原航は普段から無表情で仏頂面をしていたが、今の彼の目は笑みに満ちていた。
島田香織ははっきりと見た。彼の目の中は彼女で満ち溢れていた。
この瞬間、島田香織の心は揺れ動いた。
島田香織は自分の気持ちをよく分かっていた。分かっているからこそ、切なく感じた。
陸田健児は彼女にとても優しく接してくれた。彼女は当然陸田健児と一緒にいるべきで、今は愛情がなくても、時間が経てば自然と芽生えるかもしれない。
でも彼女の陸田健児に対する感情は感謝だけで、心は大抵の場合、波風が立たなかった。
しかし藤原航といると違った。彼の一目で心臓が思わず早鐘を打ち、彼の感情に自分の感情も左右された。
でも彼女はもう大人になった。もう恋愛を一番に考えることはなく、他にもっと重要なことがあった。
島田香織はテーブルの上のお茶を一口飲み、心の中の動揺を必死に抑えた。
「あなたのパートナーとしてですか?」藤原航は笑顔で島田香織を見つめた。
「はい」島田香織はお茶を置き、軽く頷いた。
藤原航は島田香織の側に寄り、顔を近づけて真剣に呼びかけた。「島田さん」
島田香織は藤原航を見つめ、無表情を保った。
藤原航は真摯な眼差しで島田香織を見つめ、静かに尋ねた。「もう一度やり直せませんか?」
「いいえ」島田香織は躊躇なく立ち上がり、その場を離れようとした。
島田香織の手は藤原航に掴まれた。
振り返ると、彼はまだソファに座ったまま、藤原家にいた頃には見たことのない異様な輝きを目に宿していた。
藤原航は優しく温かい人だった。
島田香織は唇を軽く噛み、眉をひそめて「離して」と言った。
「私は…」
藤原航の言葉が終わらないうちに、ドアベルが鳴った。
島田香織は我に返り、急いで手を引っ込めた。注文していたデリバリーが届いたのだ。
島田香織と藤原航が食事を終えると、奈奈さんがスタッフを連れてやってきて、二人の身支度を手伝った。全てが整うと、奈奈さんは「よし、完璧ね」と言った。
奈奈さんは藤原航が洗面所にいる間に、島田香織の側に寄り、声を潜めて尋ねた。「島田お嬢様、藤原さんがなぜここにいるんですか?」
島田香織は奈奈さんを見上げ、朝目覚めてドアベルを聞き、開けたら藤原航がいて気分が悪くなったことを思い出した。