フロントの女性が笑顔で歩み寄って接客した。
「お客様、ご予約はございますでしょうか?」
陸田健児は冷淡な表情で言った。「いいえ」
「では、こちらで手続きをお願いいたします」フロントの女性は陸田健児に笑顔を向けた。
陸田健児はフロントの女性について受付に行き、少し考えてから言った。「陸田と申します。2222号室のカードキーをお願いできますか」
陸田健児は確信していた。田中安尾が全て手配しているなら、カードキーの件も伝えてあるはずだと。
もう一人のフロントの女性は陸田健児の言葉を聞いて、明るい笑顔を浮かべ、引き出しからカードキーと鍵を取り出して言った。「陸田様、こちらは田中さんが特別にご用意されたものです」
陸田健児はマスクを上げ直しながら、鍵とカードキーを受け取った。田中安尾も少しは成長したようだと感じた。
陸田健児は島田香織を連れてエレベーターの方へ向かった。
二人ともマスクをしていたため、誰にも気付かれなかった。
二人がエレベーターに乗り込むと、陸田健児は横目で島田香織を見た。島田香織は無表情でエレベーターの階数表示を見つめていた。
「もし彼が中島さんと一緒にいたら、あなたは彼のことを完全に諦められますか?」陸田健児は島田香織の方を向いて尋ねた。
島田香織はそれを聞いて眉をひそめ、不快そうに言った。「陸田さん、私と彼はもう関係ありません。彼が誰と一緒にいようと、私には関係ないことです」
エレベーターは静かに22階で止まり、二人は2222号室の前まで歩いた。陸田健児は鍵を取り出してドアを開けた。
島田香織はその様子を見て、思わず笑いながら言った。「こんなホテルなのに、外側から鍵をかけるなんて、笑わせますね」
陸田健児は鍵を開ける動作を一瞬止めたが、表情は変えなかった。これは田中安尾がやったことで、まさか古い鍵を用意するとは思ってもみなかった。
鍵を開けた後、陸田健児はカードキーを差し込み、二人は部屋に入った。
部屋の中は薄暗く、かすかにワインの香りと、何とも言えない雰囲気が漂っていた。
島田香織は入り口に立ち、部屋の中の様子を見ながら、自分が罠にかけられた時のことを思い出していた。
彼女はハイヒールを履いたまま、優雅に中へ歩いていった。