416 あなたが恋しい！

陸田健児は鼻血が止まってから、簡単に身なりを整え、やっと部屋を出ようとした。彼の視線は隣にいる中島夏美の顔に落ちた。

中島夏美の鼻は歪んでおり、さっき泣いていたせいで顔が真っ赤で、とても気持ち悪かった。

「全く役立たずだな！」陸田健児は嫌そうに言い、外へ向かって歩き出した。

部屋は施錠されていたのに、中島夏美は藤原航を無事に逃がしてしまった。

本当に使えない奴だ。

陸田健児は片手をポケットに入れ、冷たい表情で出て行った。

陸田健児がホテルを出た時、寒風が身を切るようだった。

もう冬に入っていた。

この天気は彼の心境そのもので、寂しく荒涼として冷たかった。

藤原航に殴られた左頬が疼き、さっきの出来事を思い出すと、初めて自分が滑稽に思えた。

油断しすぎていた。今の島田香織はアイリンに催眠をかけられているのだから、自分のことなど気にするはずがない。

陸田健児は唇を軽く噛み、やはりまずアイリンを片付けなければならないと思った。

……

島田香織は藤原航の車の中に座っていた。

空から雪が舞い始め、藤原航はゆっくりと車を走らせていた。

島田香織は今日起きた出来事を思い出し、複雑な気持ちで隣に座る藤原航を見つめた。

前方は赤信号で、藤原航はゆっくりと車を止め、首を傾げると、ちょうど島田香織の視線と合った。

藤原航は島田香織を見つめ、顔に淡い笑みを浮かべた。彼は躊躇いながら手を伸ばし、そっと島田香織の手を取り、慎重に手のひらで包み込み、少しずつ握りしめた。

車内は静かで、雰囲気が妙に甘くなってきた。

突然、青信号に変わった。

島田香織は自分の手を引っ込め、無表情で前方の道路を見つめたが、頬は徐々に赤くなっていった。

藤原航が島田香織をマンションまで送り届けた時には、もう十一時を過ぎていた。

藤原航は島田香織がシートベルトを外すのを見て、すぐに彼女の腕を掴んだ。

島田香織は藤原航の方を向き、心臓は激しく鼓動していたが、表情は落ち着いていた。「離して。」

「香織、君が恋しかった。」

藤原航の声は低く掠れており、誘惑するような響きを帯びていた。

島田香織は藤原航の深い瞳を見つめ、心臓の鼓動は更に激しくなり、まるで次の瞬間には彼に吸い込まれてしまいそうだった。