藤原航は眉をしかめ、島田香織から手を離し、目に不満げな表情を浮かべながら「誰か見てくる」と言った。
島田香織はようやく意識を取り戻し、服を軽く整えてソファから起き上がった。
藤原航が玄関に向かったとき、島田香織はやっと思い出した。おそらく自分が注文したデリバリーだろう。
藤原航は持ち帰り用の袋を持って中に入り、島田香織を見上げて興味深げに尋ねた。「お腹すいてたの?」
彼の声は低く、かすれていて磁性があり、島田香織はその声を聞いて思わず耳が赤くなった。
「うん」島田香織は軽くうなずき、ふと目が藤原航の口紅が付いた唇に留まり、少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら、自分の唇を指差して「口紅が付いてるわよ」と言った。
藤原航は困惑した様子で島田香織を見つめ、何気なく口角を拭ったが、口紅のついた部分を完全に避けていた。
島田香織はテーブルからティッシュを取り出し、近づいてきた藤原航に渡した。
藤原航は島田香織の隣に座り、顔を彼女の方に少し近づけて、優しく「拭いてくれない?」と言った。
島田香織は頬を赤らめながら、ティッシュで慎重に藤原航の口角についた口紅を拭き取った。
藤原航の目に笑みが浮かび、島田香織の唇に近づこうとしたが、彼女が避けるとは予想していなかった。
「お腹すいたから、先にご飯食べたい」島田香織は笑顔で藤原航を見つめた。
島田香織が注文したのはラーメンで、保温状態も良く、開けると湯気が立ち上っていた。
藤原航は島田香織の代わりに蓋を開け、笑顔で「食べさせてあげようか!」と言った。
「いいの、いいの、自分で食べられるから」島田香織は本当にお腹が空いていて、今は藤原航と戯れる気分ではなく、箸を取って黙々とラーメンを食べ始めた。
藤原航は横で島田香織を見つめながら、指で彼女の長い髪を耳の後ろにかけ、「ベイビー、帰ってきたのになぜ連絡くれなかったの?」と尋ねた。
島田香織はラーメンを食べる動作を一瞬止め、口の中のものを飲み込んでから「忘れてた」と答えた。
「忘れてた?」藤原航は眉を少し上げ、軽く笑って、スマートフォンを取り出してあるページを開き、島田香織の前に差し出した。「ベイビーは実家でずいぶん楽しそうだったね。このイケメン君、なかなかいい感じじゃない」