440 ベイビー

陣内美念は唇を尖らせ、言葉が出てこなかった。田村警部が忙しすぎて、二人はなかなか会えないのだから仕方がない。

島田香織と陣内美念は久しぶりの集まりで、今回は陣内美念が島田香織の早退を絶対に許さなかった。

そのため島田香織は、陣内美念が酔っ払ってバーのテーブルの上で『征服』を歌うのをただ見ているしかなかった。午前2時過ぎまで、陣内美念がついに限界を迎え、しぶしぶと解散を告げた。

島田香織が家に帰ったのは午前2時半だった。バーがあまりにも騒がしかったため、藤原航からの6回の着信にも気付かなかった。

島田香織は携帯の不在着信を見て、少し後ろめたく感じた。でも、もう遅い時間だったので、直接かけ直すのではなく、LINEで藤原航にメッセージを残した。

メッセージを送信した途端、携帯が鳴り出した。

島田香織は着信画面を見て、一瞬驚いた後、電話に出た。「こんな遅くまで、まだ起きてるの?」

「返事がなかったから、眠れなかった」

島田香織は藤原航の言葉を聞いて、顔に少し困惑の色を浮かべながら言った。「さっきね、陣内美念が酔っ払って遊びたがって、最後に彼女が限界になってやっと解散したの」

「うん」

電話の向こうの藤原航はただ淡々と返事をした。

島田香織は目に戸惑いの色を浮かべ、少し躊躇してから尋ねた。「航、怒ってる?」

「別に」

藤原航の返事を聞いて、島田香織の頭に四文字が浮かんだ。

口が裏腹。

男も口が裏腹なんだ。

島田香織はベッドに横たわり、甘えた声で言った。「本当に故意に電話に出なかったわけじゃないの。もう怒らないで、ね?」

「いいよ」藤原航の声はまだ少しぎこちなかった。

島田香織は一瞬戸惑い、突然藤原家にいた時のことを思い出した。藤原航はよくこうして適当に答えていた。心の中に不安が芽生えた。

「香織、早くお風呂入って寝なさい」

島田香織が藤原家での出来事を思い出す前に、藤原航が口を開いた。

藤原航の優しい声を聞いて、島田香織は携帯を握る手に力が入り、小さな声で言った。「航、私...」

「ベイビー、早くお風呂に入って!」

島田香織の顔が一瞬で真っ赤になり、電話を切りたい衝動を必死に抑えながら、慌てて「おやすみ」と言って、結局我慢できずに電話を切った。

ベイビー。