島田香織はセブンの言葉を聞いて、思わず笑い出した。「あなた、随分と彼のことを気にかけているのね」
「大物の魚が掛かったんだ。そう簡単には逃がせないさ」
もちろん、セブンが島田香織に電話をかけた主な理由はそれではなかった。「今朝、田中安尾が酔いから覚めて、100億円の賭け金を見た時は、完全に呆然としていたよ。今もまだ店内で暴れているんだ。普通なら絶対に甘やかしたりしないけど、彼は藤原家の坊ちゃんだからね。藤原航の面子もあるし、君の面子も少しは立てないとね」
島田香織はセブンの言葉の真意を察して、急いで言った。「私の面子なんて気にしないで。規則通りにやってくれればいいわ」
彼女と田中安尾には何の関係もないし、それに田中安尾は大晦日に彼女を不愉快な目に遭わせたのだから、彼女も当然田中安尾を楽にはさせないつもりだった。
「分かった。今の言葉は録音させてもらったからね。後で文句を言わないでくれよ」
「私がどうしてあなたを責めるの?私がそんな人に見える?」
「分かったよ。後で彼氏と一緒に遊びに来てくれ。こっちはまだ片付けることが山ほどあるから、切るね」
島田香織はセブンの「彼氏」という言葉を聞いた時、思わず顔が赤くなり、恥ずかしそうに「うん」と答えて電話を切った。
顔を上げると、ドアの所にずっと立っていた藤原航の姿が目に入った。先ほどのセブンの言葉を思い出し、照れくさそうに目を伏せた。
再び目を上げた時、島田香織は普段通りの表情で笑いながら言った。「今の電話はセブンからよ」
藤原航の瞳に笑みが浮かび、眉を少し上げて「今回は彼はいくら負けたんだ?」
島田香織は手を上げて数字を示した。
「1億?」
島田香織は軽く首を振り、笑いながら言った。「100億よ!」
藤原航の顔に浮かぶ笑みがますます明るくなり、からかうように言った。「どうやら本当に自分を藤原家の後継者だと思い込んでいるようだな。こんな派手な使い方をするなんて!」
藤原航は話しながら部屋に入り、カーテンを開けて言った。「早く起きて朝ご飯を食べよう。私はこの後会社に行かなければならないから」
藤原航は脇の椅子にあったコートを取って島田香織の肩にかけ、そして彼女をベッドから抱き上げた。