第21章 あなたの美貌のために

藤崎千颯は口に麺を咥えたまま、驚くべき発言をした藤崎雪哉を呆然と見つめていた。

実の兄よ、それはちょっと話が早すぎるんじゃないか。

藤崎雪哉は質問を終えると、極めて冷静に書斎へ戻った。

まるで、今の言葉は彼が言ったものではないかのように。

工藤みやびは絶望的に額に手を当てた。この家は広くて快適だけど、もう住み続けることはできない。

藤崎千颯は麺をすすり込んで、意地悪く尋ねた。

「で、兄貴は美味しかった？美味しくなかった？」

「うせろ！」

工藤みやびは頭を下げて麺を食べ、食べ終わると茶碗を置いて、部屋に戻ってそれ以来出てこなかった。

藤崎千颯は麺を食べ終わると、彼女のお菓子を漁って書斎に入った。

食べながら、噂話を始めた。

「兄さん、正直に言って、荒木雅が美人だってずっと前から知ってたでしょ？」

藤崎雪哉は頭を下げて仕事を続け、彼に答えなかった。

藤崎千颯はクッキーを齧りながら、分析を続けた。

「だから、女性に手を出さなかった兄さんが、あの日、拒みながらも誘うような態度で、流れに任せて荒木雅と寝たんだよね…」

藤崎雪哉は「拒みながらも誘うような」という言葉を聞いて、冷たい視線を話している人に向けた。

「何を言った？」

「俺は…」

藤崎千颯はカップを持ち上げて水を一口飲み、口の中のものを飲み込んだ。「俺が言ったのは…荒木雅が拒みながらも誘うような態度で、兄さんと寝たいと思ってるってこと。」

藤崎雪哉は冷たい目で彼を見つめ、何も言わなかった。

藤崎千颯は彼が信じないのを恐れ、続けて言った。

「彼女は以前、兄さんにしつこく付きまとって追い出されたから、今は新しい戦術に切り替えたんだ。一歩引いて兄さんの前で好感度を上げようとしてる。もちろん、最終的な目的はすべて、兄さんの美貌のためだよ。」

無実の罪を着せられた荒木雅はもう眠りかけていて、思わずくしゃみを二回した。

藤崎雪哉は再び目を伏せて仕事を続けた。「黙れないなら、出て行け！」

「わかった、出てく。」藤崎千颯はお菓子を抱えて素早く書斎から出て行った。

藤崎雪哉は読み終えた書類を閉じ、脇に置こうとした時、机の隅に置かれた高校生の問題集に目が留まった。

問題集の表紙には、きちんとした字で名前が書かれていた：荒木雅。

名前の後ろには、かわいい漫画のような笑顔が描かれていた。

彼はしばらく考え深げに見つめ、気づかれないように口角を上げると、再び頭を下げて仕事に取り掛かった。

……

朝の7時、工藤みやびはトイレに行きたくて目を覚まし、ぼんやりとしたまま起き上がってトイレに向かい、パジャマのズボンを脱いで便座に座った。

用を足し終わった後、目をこすりながら、ズボンを上げて立ち上がろうとした時、かすかに人影が見えた。

彼女は呆然と瞬きをして、シャワーヘッドの下でバスタオルを巻いた男性の姿をはっきりと見た。

水滴が男性の完璧な筋肉に沿って流れ落ち、体にはまだ洗い流されていない泡がいくつか残っていた。

明らかに彼女の侵入のために、急いでバスタオルを巻いたのだった。

藤崎雪哉は滴る濡れた髪を手で払いながら、便座に座って眠そうな目をした少女を見た。少女の太ももとお尻の雪のように白い肌も、避けようもなく彼の目に入った。

工藤みやびは瞬きをして、心の中で叫んだ：早く死ぬ方法はないものか。

藤崎雪哉は彼女がまだ立ち去ろうとしないのを見て、眉をしかめた。

「まだいつまで見るつもりだ？」

工藤みやびは硬直したまま顔を横に向け、鏡を見た。くそっ、鏡にも藤崎雪哉が映っていて、どこを見ればいいのかわからなくなった。

しかし、このまま立ち去らなければ、状況はさらに厄介になる。

そこで、立ち上がってズボンを上げ、トイレから飛び出した。

トイレも流さず、スリッパが一つ脱げても取りに戻る勇気もなかった。

藤崎千颯はちょうどリビングで伸びをしていたところ、彼女が恥ずかしそうな顔でトイレから走り出てくるのを見た。自分の兄がちょうど中で入浴していることを思い出し、すぐに理解した。

「朝っぱらから兄さんの入浴を見に行くなんて、まだ彼の美貌に惹かれてないって言えるの？」