藤崎雪哉が出張から戻る前に引っ越しを済ませるため、工藤みやびは鈴木紀子たちと二日間休みを取って部屋を見に行き、毎日朝早くから夜遅くまで忙しく動き回っていた。
そのため、藤崎千颯がマンションに三回も訪ねてきたが、毎回空振りだった。
しかし、努力は報われるものだ。
彼女はついに小さなアパートを見つけた。しらゆりマンションの洗面所ほどの大きさしかなかったが、一人暮らしには十分だった。
家主と賃貸契約を交わし、手付金を支払い、家に戻って荷物をまとめようとしていたところ、鈴木紀子から会おうという電話がかかってきた。
ちょうど近くにいたので、彼女はそのまま向かった。
「ミュージカルのチケット買ったから、三人で見に行こうよ!」鈴木紀子は買ったチケットを振りながら言った。
「でも、まだやることがあるんだけど」工藤みやびは困った様子で言った。
彼女はまだ荷物をまとめて引っ越さなければならず、ミュージカルを見る気分ではなかった。
「ここ数日ずっと私たちをすっぽかしてたじゃない。ミュージカルを一緒に見るくらいいいでしょ?」鈴木紀子は口をとがらせ、不機嫌な顔をした。
工藤みやびはため息をついて、「わかったわ」と言った。
どうせ荷物はほとんど片付いていて、小物を集めるだけだった。
藤崎雪哉は明日の夜に帰ってくるので、明日の朝早く引っ越せば間に合う。
三人は公演開始の30分前に劇場に着き、周りの観客たちも続々と席に着いていた。
カジュアルな服装の服部隼が彼女たちを見て少し驚き、微笑みながら頷いた。「みやび、千晴、君たちも来たのか?」
「いとこ、なんて偶然、あなたも観劇に来たの?」
鈴木紀子は笑顔で手を振って挨拶し、そっと工藤みやびの表情を窺った。
工藤みやびは作り笑いで挨拶を返した。この小娘が良からぬことを企んでいると予想していたが、やはり騙されて連れてこられたのだ。
この不運ないとこは、きっと鈴木紀子が一人だけを誘ってミュージカルを見に来たと思って駆けつけたのだろう。
結果的に、彼女は彼を誰かとのデートに引き込もうとしていた。
30分ほど見た後、鈴木紀子は西村千晴を連れてトイレに行くと言って逃げ出した。