第58章 家も車もお金も全部あなたに

しらゆりマンションで、藤崎千颯が出て行ったと思ったら、藤崎雪哉の特別秘書である岡崎謙が二人の男を連れて、二つの大きな段ボール箱を抱えてドアをノックした。

工藤みやびは藤崎千颯が戻ってきたのかと思い、ドアを開けるなり言った。

「あのね……」

「荒木さん、おはようございます。社長から指示があり、いくつかのものをお渡しに参りました」岡崎謙は単刀直入に言った。

工藤みやびは少し戸惑った。彼女と藤崎雪哉の間に何か引き継ぐものがあるというのか?

岡崎謙は人を連れて中に入り、箱を置いて中の書類を束ごとに取り出した。

「荒木さん、こちらは社長の国内の不動産、こちらは海外のものです」

工藤みやびはまばたきをして、「これは……」

「荒木さんがお気に入りのものがあれば、サインをいただければあなたの名義に変更する手続きができます。もちろん……全部気に入ったなら、全部にサインしていただいても構いません」

工藤みやびはテーブルの上の書類を見つめながら尋ねた。

「あなたの社長は……狂ったの?」

岡崎謙は軽く微笑み、自分の仕事を続けた。

「こちらは車のキーです。車は全て駐車場に停めてあります」

工藤みやびは眉をひそめながらテーブルに並べられた一列の車のキーを見て、本当に狂ったのだと思った。

岡崎謙は最後に黒いカードを取り出し、テーブルに置いて言った。

「これは社長のカードです。既に銀行には連絡済みですので、ご自由にお使いいただけます」

工藤みやびは乾いた笑いを浮かべた。本当に家も車もお金も全部揃えてきたわけだ。

つまり、これは本気で彼女を囲おうとしているということ?

「あの、他に何かある?」

岡崎謙:「荒木さんは他に何か必要ですか?」

「契約書とか協定書みたいなもの、あなたの社長と私が結ぶような」工藤みやびは尋ねた。

囲われ関係を話し合うなら、契約書くらいあるはずでしょう。

藤崎雪哉が彼女を行かせてくれないなら、計略に乗って、藤崎家の力を借りて早く堀夏縁と対等に立てる高みに上り、彼女が負っている全てを取り戻そう。

岡崎謙は首を振った。「それについては社長から指示はありませんでした」

工藤みやびはテーブルの上の不動産書類、車のキー、黒いカードを見つめた。つまり……これは一体どういう意味なのか?