第65章 「鬼火」に支配された恐怖を忘れたのか

栄誠中学校、三日間の模擬試験がようやく終わった。

工藤みやびが教室を出て携帯の電源を入れると、すぐに藤崎雪哉から電話がかかってきた。

彼女は周りを見回し、人の少ない場所に移動してから電話に出た。「藤崎さん、何かありますか?」

「試験終わったの?」

「はい」

「何時に帰る?」

「芸術試験の準備があるので、遅くなるかもしれません」と工藤みやびは答えた。

正直に言うと、彼に会いたくなかった。前回の食事の時、彼の魅力に魂を奪われそうになったから。

「わかった、夜に会おう」藤崎雪哉はそう言って、電話を切った。

夜に会う?!

工藤みやびは携帯を投げ出したい衝動に駆られた。くそっ、あまり来ないと言っていたのに、最近は三日に二回も来て、まるで同棲しているみたいじゃないか。

「雅!」

鈴木紀子と西村千晴が彼女を見つけ、左右から歩み寄ってきた。

「ダンス教室の先生と生徒たちは私の知り合いだから、もう話してあるわ。これからしばらく一緒に練習できるよ」

西村千晴は紙袋を彼女に渡した。「ほら、これはあなたのためのダンス衣装と靴よ」

「ありがとう、二人とも心強いわ」工藤みやびは左右に歩く二人を見て、心から感謝した。

映画学院の芸術試験まであまり時間がなく、試験内容は声楽や台詞の他にダンスもあった。

芸術試験の後には、彼女が参加予定の映画オーディションがある。それは武侠映画で、アクションシーンがきっと多いだろう。

彼女は体をしっかり動かす時間が必要で、最高の状態で試験とオーディションに臨むためだった。

アパートでは普段の足のストレッチなどはできるが、大きな動きの練習スペースは足りないので、ダンスクラスの仲間と一緒に練習する方法を考えるしかなかった。

「私はあなたが早く帝都映画学院に合格して、将来大スターになって、私を引き立ててくれるのを待ってるのよ」鈴木紀子はそう言いながら、遠くの壁に掛かっている中山里奈のポスターを見て、憤慨した。

「前回の演奏対決であなたに勝てなかったのに、彼女はレコード会社と契約して、シングルを制作するらしいわ。あの人たち、目が節穴なの?」

「他人が目が見えてるかどうかなんて気にしないで、自分の試験準備に集中するのが一番大事よ」工藤みやびはそう言いながら、ダンス教室の隣の更衣室に入り、練習しやすいダンス衣装と靴に着替えた。