第87章 なぜドアを閉めないのか

病院からアパートに戻ったのは、すでに夜の10時だった。

彼女は部屋に戻って、ゆったりとしたパジャマに着替え、手に残った血痕を見て、洗面所へ向かった。

彼女が足を踏み入れるや否や、藤崎雪哉がすぐ後に続いて入ってきた。

「何をするつもり？」

「……手を洗うだけ。」

藤崎雪哉は彼女を抱き上げて洗面台に座らせ、彼女のパジャマの袖をまくり上げ、タオルを濡らして絞った。

そして、少しずつ彼女の手に残った血痕を拭き取っていった。

彼女の手を拭いた後、タオルを洗い、彼女の顔の泥や灰も拭き取った。

「……ありがとう。」工藤みやびは妙に自分が彼の娘になったような既視感を覚えた。

藤崎雪哉はタオルを置き、洗面台に座っている少女をじっと見つめ、黒い瞳は深遠で優しかった。

「みやび、今夜のことは二度と起こってほしくない。」

駆けつける途中、彼はこれまで経験したことのない緊張と恐怖を味わった。

工藤みやびは唇を噛んで少し黙った後、軽く笑って言った。「今日は偶然だし、ただの小さな怪我だよ……」

「それとも、私に人を付けて完全に監視させたいのか？」藤崎雪哉は冷たい声で彼女の言葉を遮った。

工藤みやびの目の中の笑みは消え、澄んだ瞳の底に霜が降りたようだった。「藤崎雪哉、私はあなたの所有物じゃない。私の人生に過度に干渉しないでください。」

彼が今彼女を好きなのは、彼がまだ彼女が工藤みやびだと知らないからだ。

将来、彼が彼女が誰なのかを知ったら、彼女を憎むだけだろう。

藤崎雪哉の深い黒い瞳が急に暗くなり、ゆっくりと頭を下げて彼女に近づいた。「では、私の所有物になれば、少しは大人しくなるのか？」

工藤みやびは眉をひそめて後ろに頭を傾け、彼との距離を少し開けようとしたが、鏡に背中がついてしまい、心の中で罵った。

くそっ、またこの忌々しいテーブルか？！

前回は書斎の机、今回は洗面台。

藤崎雪哉は身を乗り出して迫り、薄い唇が強引に彼女の柔らかな唇に押し付けられ、熱い息が濃厚な男性ホルモンの香りを放ち、彼女の呼吸をすべて奪った。

彼女は男の熱烈なキスから逃れようと顔をそむけたが、口を開けた瞬間、舌が絡み合う深いキスに変わり、男の熱い手はすでにゆったりとしたパジャマの中に入り込み、彼女の腰に触れていた。