工藤みやびは彼だと疑っていたが、証拠がなかった。
藤崎千颯は彼だと知っていたが、言う勇気がなかった。
数学の補習クラスは受けられなくなったが、藤崎雪哉は願い通り彼女の数学指導教師を続けることになった。
毎日放課後、自分で他の科目を復習するか、藤崎雪哉が時間のある時に数学を教えてもらうかで、あっという間に半月が過ぎた。
ある日の午後、授業が終わるとすぐに鈴木紀子が走ってきて彼女の腕を抱きしめた。
「天才、来週芸術の試験があるの、助けて。」
「わかったわ、まずはどれくらい練習できているか見てみましょう。」工藤みやびはうなずき、彼女と一緒に西村千晴と合流した。
二人は順番に芸術試験で抜き打ちチェックされる5曲を弾いてみせた。西村千晴は問題なかったが、鈴木紀子はリズムをうまく掴めていなかった。
彼女は一小節ずつ演奏して見せ、やっと鈴木紀子は1曲をなんとか習得した。
夜8時過ぎになってようやく、彼女と鈴木紀子は西村家を後にした。
「天才、正直に言って、藤崎雪哉みたいなイケメンと一緒に住んでいて、本当に何も考えないの?」
「どんなこと?」工藤みやびは知らないふりをした。
「彼と寝たいという考えよ。」鈴木紀子は興奮して言った。「日本中の女性が彼のベッドに入りたがっているのよ。あの顔、あの体、あなたはこんなに近くにいるのに、本当に何も考えないの?」
工藤みやびは平然とした顔で「ないわ」と答えた。
「あなた本当に女なの?」鈴木紀子はもどかしそうに言った。
「あなたは私に義姉になってほしいって言ってたのに、今度は藤崎雪哉と寝るように唆すの?あなたって本当に気まぐれね。」
「これは日本中の女性の夢なのよ、もちろん私の夢でもあるわ。あなたがそれを達成したら、私の夢も叶えてくれたことになるわ。」鈴木紀子はため息をついて言った。
「……」工藤みやびは言葉を失った。これがどんな夢なのか。
まあいいか、彼女の夢はすでに叶っていた。
彼女は藤崎雪哉と寝たわけではないが、荒木雅はすでに寝ていた。
「夢があるなら、私が仲介してあげるわよ。」
鈴木紀子は首を振り続けた。「やめて、彼を見るだけでビビっちゃうから、夢見るだけでいいの。」
あの日、藤崎社長と同じリビングにいただけで、息苦しくなったのだから。