第171章 少なくとも宝物である

この「やーちゃん」という名前のせいで、藤崎千明は30分近く笑い続けた。

撮影現場に向かう途中、彼は我慢できずに帝都にいる実の兄に電話をかけ、状況を報告した。

彼が恐らく彼女のことについて話すだろうと知っていたので、藤崎雪哉は手元の仕事を置いて、弟の電話に出た。

「兄さん、知ってる?...あなたの彼女が連絡先であなたをどんな名前で登録してるか知ってる?」

「何だって?」藤崎雪哉は推測する気もなかった。

彼が知っているのは、彼女が以前「大魔王藤崎雪哉」と登録していたことだけだった。

藤崎千明は爆笑した後に言った。「彼女はあなたを『やーちゃん』って登録してるんだよ、ははははは、あなたの『雪』じゃなくて、凧の『や』だよ...」

「他の人が見て彼女に聞いたら、彼女はそれが親友だって言ってたよ、ははははは...」

...

兄貴の彼氏としての立場は、本当に哀れなほど悲惨だ。

「言い終わった?」藤崎雪哉は尋ねた。

「...ほぼね。」

藤崎雪哉は電話を切り、口元にかすかな笑みを浮かべた。

うん、少なくとも「ちゃん」という言葉があるから、悪くない。

小倉穂のスタジオシーンはそれほど多くなく、監督チームも男女主役のシーンを先に撮影することに集中していたため、工藤みやびは暇になった。

武術指導者と一緒に後のロケ地での格闘シーンの練習をするか、劇団の他の脇役と台本の読み合わせをするかのどちらかだった。

しかし、昼の撮影はずっとうまくいかなかった。

藤崎千明と竹内薫乃はNGを出し続け、安藤泰監督はとても不機嫌で、撮影現場全体が重苦しい雰囲気に包まれていた。

本来は今日5シーンを撮影する予定だったが、結局竹内薫乃と藤崎千明は安藤泰が満足する2シーンしか撮れなかった。

午後になると、監督助手が工藤みやびに、撮影チームが場所を変えて小倉穂と入寇の三王子大塚瀬南のシーンを撮影する準備をしていると知らせに来た。

彼女と大塚瀬南を演じる佐野拓弥がメイクチームでメイクをしている時、藤崎千明が疲れた表情で入ってきて、椅子に崩れるように座った。

「佐野、俺たち役を交換しないか?お前が工藤長風を演じて、俺が三王子をやるよ。俺の方が王子の雰囲気があると思うんだ。」

くそっ、竹内薫乃と恋愛シーンを演じるなんて、まるで命を削られるようだ。