『長風』の撮影が終盤に差し掛かり、毎日各ロケ地を転々としながら屋外シーンを撮影していた。
ただ、小倉穂と工藤長風が幼少期に出会い、友情を育んだ後に別れるシーンの撮影になった。
何度か撮り直したが、安藤泰監督はどうしても満足できず、何かが足りないと感じていた。
そこで、二人にそのシーンを何度も撮り直させた。
脚本家はモニターに映し出された映像を何度か見た後、提案した。
「考えていたんですが...小倉穂と工藤長風のキスシーンを追加してみてはどうでしょうか?」
監督はそれを聞いて、目から鱗が落ちたように頷いた。
「そうだ、そうだ、まさにそれだ。何か火花が足りないと思っていたのは、これだったんだ」
小倉穂は工藤長風に感情を抱いているが、今の撮影では弱く感じられる。
このキスシーンがあれば、すべてが明確になるだろう。
また、小倉穂は愛憎がはっきりした人物だ。
だから彼女の工藤長風への感情には、このキスシーンが必要不可欠だった。
インスピレーションを得た安藤監督は拡声器を押して言った。
「各部門準備、このシーン撮り直し」
「小倉穂と工藤長風にキスシーンを追加する。二人とも心の準備をしておいて」
「...」工藤みやびの手から水がガタンと床に落ちた。
何だって?
彼女に藤崎千明とキスシーンを撮れというの?
藤崎千明は床に座って休んでいたが、撮影再開の知らせを聞いて立ち上がろうとした時、安藤監督の二番目の言葉を聞いて足がすくんだ。
「安藤先生、今...何のキスシーンとおっしゃいました?」
「小倉穂と工藤長風のキスシーンを追加して、小倉穂のキャラクター特性を強調するんだ」監督は繰り返した。
藤崎千明はゆっくりと顔を向け、メイク直しをしている工藤みやびを見た。口角が痙攣した。
「監督、この武侠映画で、キスシーンなんて撮らなくてもいいんじゃないですか?」
「安藤先生、私もそう思います。時代劇武侠映画は控えめな方が風情があります」工藤みやびも続けて言った。
彼女に藤崎千明とキスさせるなんて、本当にできないと思った。
安藤泰監督はキスシーンを拒否する二人を不思議そうに見た。「おいおい、何なんだ君たち。たかがキスシーンじゃないか、何を気取ってるんだ」
「僕はキスシーンを撮るのが好きじゃないんです」藤崎千明は拒絶の表情で言った。