第211章 彼女が胸の開いた服を着ようとしている、どうするか

石橋林人は水を一口飲み、彼女の胸元をちらりと見た。

「まずは試着してみて、行かないわけにはいかないでしょう」

今となっては、彼女のために新しいドレスを探す時間はもうなかった。

胸の大きさで言えば、彼女は竹内薫乃のパッドで盛った胸よりも実際大きかった。

「これは……」

工藤みやびはドレスを手に取り、泣きそうな顔をした。

あのキスマークがファンデーションで隠せるかどうかもわからない。

彼女がファンデーションを持って着替えに行こうとしたとき、すでに準備を済ませた藤崎千明がやってきた。

高級オーダーメイドの黒いスーツに、目を引くシルバーグレーの髪が、彼の不良っぽくてかっこいい雰囲気を最大限に引き立てていた。

「どうしたんだ、さっきドレスが着られないって?」

「ドレスにコーヒーがついてしまって、代わりのものを見つけたんだ。今はこれしか着るものがない」石橋林人は工藤みやびが手に持っているシルバーホワイトの深いVネックのマーメイドドレスを指さした。

藤崎千明はそれを見て、息を飲んだ。

「ダメだダメだ、こんなに露出が多くて、着ていけるわけないだろう?」

兄が知ったら、怒り狂うに違いない。

「今から入場まで1時間もないんだ。これを着なければ、行けなくなる」石橋林人は焦って言った。

藤崎千明は携帯を取り出し、工藤みやびとドレスを一緒に写真に撮った。

「もう少し待って、新しいのを探してもらう」

彼はソファに座り、すぐに実の兄にLINEを送った。

[ドレスが駄目になった。彼女はこの深いVネックの胸の露出が多いドレスを着るつもりだ。どうするか]

帝都で会議中だった藤崎雪哉はドレスの写真を見るとすぐに会議を中断した。

そして、藤崎千明に返信を送った。

[30分待て]

藤崎千明はLINEを見終わると、足を組んで言った。

「30分待とう」

工藤みやびは手に持っていたドレスを下ろし、こっそりとため息をついた。結局このドレスを着なくて済むことになった。

石橋林人は焦って部屋の中を行ったり来たりしていた。入場時間がもう迫っているのに、ドレスはまだ届いていなかった。

「三の若様、急かしてもらえませんか?本当に時間がないんです」

藤崎千明はスマホでゲームをしながら、まったく焦っている様子はなかった。

「まだ30分経ってないじゃないか」