社長が彼女を連れて出勤したというニュースは、すぐに藤崎グループ本社ビル中に広まった。
マーケティング部の女性社員が19階に資料を届けに行き、ちょうど社長が彼女を連れて出勤する場面を目撃し、マーケティング部に戻るとすぐに興奮して宣言した。
「大ニュース!大ニュース!」
「また上に行って社長を見てきたの?」ある女性同僚が化粧直しをしながら笑って尋ねた。
藤崎グループで働く女性で、社長の藤崎雪哉のルックスに憧れない者はいなかった。
「社長を見たんじゃなくて、社長が彼女を連れて出勤してきたのを見たのよ!」
マーケティング部の向かいは広報部で、議論の声を聞いて誰かが来て言った。
「あなたが見たのは丸山部長でしょ?」
丸山部長はまだ会社に来ていないので、おそらく社長と一緒に19階にいるのだろう。
情報を漏らしたマーケティング部の女性社員はちらりと見て、オフィスに立っている派手な化粧の女性を見て鼻を鳴らした。
「すみませんが、私が見たのはあなたたちの丸山部長じゃなくて、丸山部長よりもっと若くて美しい女の子よ。」
「どんな顔をしているの?」マーケティング部の女性たちは好奇心いっぱいに尋ねた。
「彼女はマスクをしていたから顔は見えなかったけど、肌は本当に綺麗で、殻をむいた卵みたいだったわ。目はまつげが長くて上向きで、羨ましくて死にそう……」
「マスクをしていた?社長の彼女がマスクをするなんて、あなた目が悪いんじゃない?」広報部の女性社員は冷たく鼻を鳴らした。
どんな女性が藤崎雪哉と一緒に歩いていて、マスクをして人に会わないなんてことがあるだろうか?
「信じようが信じまいが、とにかく19階の全員が社長と彼女が手をつないでエレベーターから出てくるのを見たわ。」
「手をつないで?丸山部長も社長の手を握ったことないでしょ?」
「もういいわ、彼女は自分が社長夫人になると思い込んでるだけよ。社長が認めたことなんてないし、今日来たこの子こそが本物なのよ。」
「そうよ、丸山部長が毎日藤崎奥様にへつらってるの見てると、本当に自分を社長夫人だと思ってるみたい。」
……
もともと女性同士は噂話が多いものだが、丸山みやこが普段から未来の社長夫人のような態度をとっていたので、マーケティング部の女性社員たちはとっくに我慢の限界だった。