夜の11時、工藤みやびはマネージャーとアシスタントを連れて西新宿の空港で、先に到着していた藤崎千明と合流した。
マネージャーの石橋林人は藤崎千明がわざわざ彼らを待っていたのを見て、彼女の後ろで小声で尋ねた。
「前回、大ボスが撮影現場を訪れた時、会った?」
工藤みやびは一瞬戸惑い、「……少し会いました」
彼が言う大ボスとは、もちろん藤崎雪哉のことだ。
「大ボスに良い印象を残せた?」石橋林人は緊張した様子で尋ねた。
「え?」工藤みやびは眉を上げた。
「我が事務所のタレントが大ボスに会える機会は本当に稀だよ。結局、良い印象は残せたの?」石橋林人は追及した。
工藤みやびは呆れて反問した。「石橋林人兄さん、あなたは今は私のキャリアを優先して、枕営業で道を外れるなって言ったじゃないですか?」
「それは他の小物に対してだよ。大ボスがあなたを口説くのはあなたの栄誉だ!」
石橋林人は自分のタレントを見て、心の中で思った:こんなに美しいんだから、チャンスはあるはずだ。
でも、まずはこの遊び人の三の若様を防がないと、彼に横取りされてしまう。
「……」工藤みやびは口角を引きつらせ、言葉を失った。
一行はVIP通路を通り、予約済みのホテルへ向かった。
マネージャーとアシスタントが彼女の荷物を部屋まで運び、言った。
「早く休んで、明日の昼にはプロモーション活動があるし、午後には映画祭のスタイリングもある」
「安藤先生たちは?」工藤みやびは尋ねた。
彼女が映画祭に参加できるのは、完全に安藤先生が獲得した招待状のおかげだった。
「安藤先生は次の便で到着する予定だよ。竹内薫乃は仕事があるから、明日の朝に到着して、映画祭だけ参加するよ」石橋林人は言った。
「わかりました」
工藤みやびは二人を見送り、部屋を施錠してシャワーを浴びた後、携帯を確認した。
以前なら毎晩この時間に電話をかけてきた藤崎雪哉。
今日は珍しく電話もなく、LINEのメッセージも一通もなかった。
まあいいか、たぶん仕事が忙しいんだろう。
彼女は明日使うものを整理して、電気を消して休んだ。
朝早く起きて、また携帯を確認したが、やはり電話もメッセージも一通もなかった。
アシスタントが朝食を促しに来て、昼のプロモーション活動の準備をするよう言われ、彼女もそれ以上考える余裕はなかった。