空港からホテルへ向かう際、彼女は藤崎千明と同じ車に乗ることになった。
車に乗るなり、藤崎千明は前の席にいる秘書からペンと紙を借りて、何かを急いで書き始めた。何を書いているのかは分からなかった。
工藤みやびは窓の外を眺めながら、見慣れた亜蘭国の西居都を見つめ、心は暗く沈んでいた。
車は1時間以上走り、ようやく撮影クルーが予約していたホテルに到着した。
車から降りる直前、藤崎千明は道中ずっと書いていた紙を彼女に渡した。
「何これ?」
工藤みやびはちらりと見て、受け取りたくなさそうだった。
「兄さんをなだめる言葉だよ。言葉も全部書いておいたから、後で兄さんから電話があったら、これを読んで聞かせてあげて」
彼女のあの不器用な口では、きっと上手く兄をなだめられないだろう。
だから、彼は早めに準備しておくのが良いと思った。