第277章 異常事態には必ず妖あり

早朝、工藤みやびは誰かのキスで夢から覚めた。

「起きて、一緒に出勤しよう」

「午後にはオーディションがあるの」工藤みやびは眠そうな目でつぶやいた。

いい大人なのに、出勤するのに付き添いが必要なの?

「午後は岡崎謙に送らせるよ」

藤崎雪哉は彼女を布団から引っ張り出した。あと二日で彼女はまた仕事で忙しくなる。会える時間がまた少なくなってしまう。

工藤みやびは不本意ながら起き上がり、朝食を食べ、服を着替えて会社に付いていった。

もちろん、マスクをしたままで。

会社は人が多く目も多い。彼女が素顔を見せれば、明日にはまた見出しを飾ることになるだろう。

19階のオフィスの社員たちは、自分たちのボスがまた彼女を連れて出勤してきたのを見て、喜びと憂いが入り混じった表情を浮かべた。

喜ばしいのは、今日の仕事がきっと非常に楽になること。

憂いなのは...イチャイチャが多すぎて、うんざりすること。

朝9時、定例のモーニングミーティング。

藤崎雪哉は彼女も一緒に連れて行った。工藤みやびは彼のオフィスから外国語の詩集を一冊手に取り、時間つぶしに持っていった。

しかし、数ページめくって気づいた。

それは以前、彼女が地方にいた時に、藤崎雪哉が電話で読んでくれたものだった。

彼女は思わず横を見て、真剣に会議を進行している男性を見た。彼の目元には隠しきれない甘い笑みが浮かんでいた。

藤崎雪哉は視界の端で彼女が自分に向かって微笑んでいるのを見て、彼女の手にある詩集をちらりと見てから、笑みを含んだ彼女の目元を見つめた。

薄く冷たい唇が愛おしそうな笑みを浮かべ、報告中の開発部長は目を丸くして言葉を失った。

藤崎千颯はクマを抱えながら、もはや驚きもしなかった。

しかし、くそっ、これは仕事中だ。勤務時間中に少しは気をつけられないのか。

小さい頃から祖母は彼と藤崎の三の若様が口が上手く話が上手いと褒め、兄は人に好かれる言葉を言わないと言っていた。

今見ると、彼の人を喜ばせる言葉は全て今の恋愛のために貯めていたようだ。

彼ら三人は「君子の復讐は十年経っても遅くない」と言っていたが。

しかし、彼に息子ができて、その息子に彼への仕返しを教えるまで、いつになるのだろうか。