早朝、藤崎雪哉が起床すると、彼女も一緒に早起きした。
一緒に朝食を取ると、藤崎千明が彼女を空港へ急かしに来た。
工藤みやびは時間を確認し、慌ててスーツケースを引きながら言った。
「行ってくるね。」
藤崎雪哉は少し顔を曇らせ、手元の朝刊をめくりながら、何気なく尋ねた。
「何か忘れ物はない?」
工藤みやびは玄関まで行って考え込んだ。「荷物は全部揃ってるよ。」
藤崎千明はサングラスをかけ、呆れた様子で促した。
「兄さんの顔見てみろよ。『早くキスして、出かける前にキスを忘れないで』って顔に書いてあるじゃないか。」
以前は気づかなかったが、彼の兄には二つの顔があるようだ。
以前は人前でも裏でも冷たく無情だったのに、今は彼女の前では、その真面目さが内心の色気を抑えきれず、あの手この手でキスやハグをねだっている。