佐藤臣は扉の外で自分の髪型を整え、廊下の角にいる助手に目配せして、すべてを撮影するよう合図した。
しばらく経っても扉が開かないので、彼はドアベルを押して中の人を急かした。
工藤みやびは藤崎雪哉にシャワーを浴びるよう促してから、ドアを開けに出た。
しかし、彼を部屋に入れる様子はなかった。
佐藤臣は彼女が自分を招き入れる気配がないのを見て、「ずっと入り口で話すのは、不便じゃないですか」と言った。
工藤みやびは腕を組んでドア枠に寄りかかり、「ここで話すのが一番都合がいいと思いますけど」と返した。
彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに、エレベーターのドアが開き、彼女のマネージャーである石橋林人が勢いよく飛び出してきた。
廊下の角に隠れてスマホで盗撮していた佐藤臣の助手を一気に引っ張り出した。
その人間をこちらに引きずりながら、罵声を浴びせた。
「佐藤臣、うちのタレントとスキャンダルを作りたいなら、まず自分の器量を鏡で確かめろよ!」
彼はこの業界で長年やってきて、こういう小細工は見え見えだった。
深夜に脚本の打ち合わせという口実で、自分のタレントを訪ねてくる。
助手は隅に隠れて、二人が部屋に入るところを撮影する。
そして映画が公開され、映画と自分のタレントの人気が高まったタイミングで、ゴシップメディアにリークして彼と自分のタレントのスキャンダルを煽る。
そうすれば、彼は自分のタレントの人気にあやかって、自分の知名度を上げられる。
スキャンダルというのは、元々風評に過ぎないもので、一度出回ると弁解すればするほど状況は悪化するものだ。
佐藤臣は石橋林人が自分の助手を引きずってくるのを見て、表情が一瞬変わったが、それでも愛想笑いを浮かべて言った。
「僕はただ雅と演技の打ち合わせをして、明日撮影する二つのシーンについて話し合いたかっただけです。石橋マネージャーは考えすぎですよ」
彼はまさにそのつもりだったが、彼らの前でそれを認めるわけがなかった。
石橋林人は怒りのあまり、佐藤臣の助手を壁際に蹴飛ばし、工藤みやびの前に立ちはだかって言った。
「うちのタレントとそんなに親しくないのに、名前で呼ぶなんて、お前は何様のつもりだ?」