「もちろん違うわ」工藤みやびは否定した。
藤崎雪哉がまだ彼女の部屋にいるのに、この否定はなんとも心虚いものだった。
石橋林人はエレベーターのボタンを押し、怒って言った。
「いないならいいけど、変なやつらがお前に近づくなんて許さないからな」
工藤みやびはエレベーターに乗り込んで尋ねた。「佐藤臣のことはどうなった?」
「あいつか?」石橋林人は冷たく鼻を鳴らし、腕を組んで言った。「昨夜、千秋芸能のタレント全員に話をつけた。これからは佐藤臣の仕事は、奪えるものは全部奪ってやる」
アシスタントの岡崎はそれを聞いて、意見を述べた。
「でも『追跡の眼』が公開されたら、彼の人気は間違いなく上がりますよ。千秋のタレントがどれだけ奪っても、そう多くは奪えないでしょう」
土屋凪翔監督の大作だ。たとえ彼が男性二番手の役だとしても、人気は低くならないだろう。
特に、佐藤臣が演じるこのキャラクターは好感度が高い。
「心配するな。俺に陰湿なことをしかけてくるなら、潰してやる」石橋林人は冷笑した。
彼は20歳でこの業界に入り、多くのタレントを育ててきた。やったことのない手段なんてない。
ただ、今の彼のタレントは美しく実力もあるから、彼女に悪評を招くような小細工はしたくなかった。
しかし、誰かが事を起こそうとするなら、手加減はしないつもりだ。
「じゃあ、よろしくお願いね」工藤みやびは特に制止しなかった。
もし石橋林人の対応が藤崎雪哉の満足いくものでなければ、彼が手を下した場合の佐藤臣の末路はさらに悲惨なものになるだろう。
最近撮影するシーンが多いため、撮影現場に着くとすぐに彼女はヘアメイク班に向かい、メイクとスタイリングをして撮影の準備を始めた。
石橋林人は携帯を持って少し離れたところに行き、藤崎千明のマネージャーである宮本明人に電話をかけた。
「三の若様はどこだ?話があるんだ」
宮本明人は少し離れたところで、メイクをしながら若いモデルに声をかけている自分のタレントを見た。
「彼は今…ちょっと忙しいようです」
「電話を代わってくれ、重要な話がある」石橋林人は強調した。
宮本明人は少し考えてから、藤崎千明に声をかけて携帯を渡した。
石橋林人は今は荒木雅一人しか担当していないが、それでも千秋芸能の古参の一人だ。だからこの程度の面子は立てなければならない。