第471章 この世に荒木雅はもういない、工藤みやびだけがいる

亜蘭国、工藤邸。

朝日が窓から差し込み、ベッドで眠っていた少女は苦しそうに眉をひそめ、弱々しくつぶやいた。

「……藤崎雪哉。」

ベッドの傍らで見守っていたメイドは彼女が目覚めそうなのを見て、すぐにドアを開けて外の人に知らせに行った。

しばらくして、彼女はようやく苦労して目を開けた。

ベッドから降りようとしたが、全身が力が入らないほど弱っていて、座るだけでも汗だくになるほど疲れた。

彼女は見覚えのある、でも何か違和感のある部屋を見回し、一瞬混乱した。

この部屋のすべてが、彼女にはとても馴染みがあった。

かつて自分の部屋だったからだ。置かれているもの、カーテンの色、部屋の装飾スタイルはすべて欧風だった。

しかし、これらはすべて彼女から遠ざかっていたはずなのに、なぜ目の前に現れているのか。

ここは……一体どこなのだろう?

彼女は覚えていた。ホテルで藤崎雪哉が送ってきたボディガードと合流し、ホテルを出る準備をしていたことを。

そして、ボディガードが銃撃を受け、彼女はボディガードの銃を手に入れて一人を撃ち殺したが、後ろから現れた人物に銃を後頭部に突きつけられた。

その後……目が覚めたらこの工藤家のような場所にいた。

彼女が周囲を見回し、自分がどこにいるのか確かめようとしていると、部屋のドアが開いた。

カジュアルな部屋着姿の男性が入ってきて、ベッドの傍らに立ち彼女を見つめた。

「目が覚めたか。」

工藤みやびは目の前に現れた男性を呆然と見つめた。「……工藤司?」

なぜ工藤司がここにいるのだろう?

くそっ、彼女は一体どこにいるのだろう?

工藤司はベッドの傍らに立ち、端正な顔に優雅で紳士的な微笑みを浮かべていた。

工藤みやびは困惑した目で「ここは……どこ?」と尋ねた。

工藤司:「工藤家だ。」

工藤みやびは周りの見覚えのあるものすべてを茫然と見回し、そしてベッドの傍らに立つ工藤司を見た。

まるで恐ろしい錯覚に襲われたかのように、自分がとても長い夢を見ていたような気がした。

夢の中で彼女は死に、別の人間になった。

彼女は藤崎雪哉に出会い、彼を愛するようになり、彼と結婚しようとしていた……

そして、夢から覚めた。

彼女はまだ工藤家にいて、まだ工藤みやびだった……