作家の千葉秀豊と脚本の修正方向を決め、藤崎千明と撮影チームの準備作業について相談した。
天水ヴィラに戻ったときには、すでに夜の9時を過ぎていた。
しかも、翌朝早くには風蘭国の映画祭に参加するために飛び立たなければならない。
彼女が荷物をまとめている間、藤崎雪哉はそばで黙って見ていたが、その表情はすでにかなり不機嫌だった。
工藤みやびは荷物をまとめ終えると、近づいていたずらっぽく尋ねた。
「荒木雅の彼氏、藤崎雪哉さん、不機嫌なの?」
「家をホテル代わりにする彼女がいて、嬉しいはずがないだろう?」
藤崎雪哉は彼女を引き寄せて膝の上に座らせ、深くため息をついた。
工藤みやびは干笑いした。確かに最近は1ヶ月に一度ほど帰ってきては、数日滞在してまた出かけてしまう。
どうやら、あまり良い彼女とは言えないようだ。
「今月の予定が終わったら、あとは準備中の映画に集中するから、帝都であなたと過ごす時間がたくさんできるわ」
『追跡の眼』は複数の国際映画祭にノミネートされており、顔を売っておく必要があった。
将来、自分の映画を持って再び参加するためにも。
「それはいいな。その頃にはメリンのデザインも出来上がっているだろう」と藤崎雪哉は言った。
工藤みやび:「どんなデザイン?」
最近、メリンに何かデザインを頼んだ覚えはなかった。
「ウェディングドレスだ」と藤崎雪哉は答えた。
工藤みやびはそれを聞いて、笑顔で目を細めた。
「藤崎おじさん、そんなに急いでるの?私、もう逃げないわよ」
「結婚式はどこで挙げたい?」藤崎雪哉は続けて尋ねた。
まだ半年の時間があるとはいえ、準備すべきことを考えると、半年では足りないようにも思えた。
工藤みやびは軽く笑って、「私が帰ってきてから、相談しましょう?」
明日の朝早くには出発するというのに、彼は半年後のことを相談しようとしている。
藤崎雪哉は頭を下げ、彼女の額に軽く触れながらつぶやいた。
「君が藤崎夫人になるのが待ちきれないんだ」
彼女はすぐそばにいて、結婚証明書以外は夫婦と変わらない関係なのに。
それでも、彼はその一枚の結婚証明書を異常なほど欲していた。
工藤みやびは笑いながら尋ねた。
「藤崎雪哉、私のどこがそんなにいいの?」