工藤みやびは表情を平静に保ち、驚きもなければ怒りの色も見せなかった。
結局、もし本当にアンダーソン家の人間だったとしたら、最初から彼らに近づいた目的は単純なものではなかったはずだ。
当時は気づかなかったが、今思い返してみると、本間夢と一緒にいた様々な出来事には、怪しい点もあった。
しかし彼女も分かっていた。本間夢の腕前なら、二人きりの時に彼女を殺そうと思えば、いとも簡単にできたはずだ。
結局のところ、あの頃は彼女と一緒に遊びに出かけることも多く、何度も手を下す機会があったのだから。
本間壮佑は彼女が驚きも怒りも見せないのを見て、話を続けた。
「俺がドランス家の一員だということは秘密にしていたが、それでもアンダーソン家の人間に知られてしまった。だから本間夢を送り込んで俺に近づかせ、俺が亜蘭国で何をしているのか調査させた。そして...彼女はお前の存在を知ることになった」
工藤みやびは理解したように頷いた。「あなたは美人計にはまったのね」
「それが重要なことじゃない」本間壮佑は笑った。
工藤みやびは肩をすくめた。「でも事実でしょ」
本間夢はいつも、彼の美貌に惹かれて本間家に来たのだと、彼の美人計にはまったのだと言っていた。
実際は、美人計にはまったのは彼の方だった。
そうでなければ、彼女の素性を知りながら、彼女と一緒にいて、福くんまで生まれることはなかっただろう。
「彼女はお前がカーマン・ドランスの娘だと知って、あの年の彼女の誕生日に密かにお前をアマゾンに連れて行ったのは、手を下すつもりだったんだ」本間壮佑は一言一句、長年彼女に隠してきた秘密を打ち明けた。
工藤みやびは思い出した。あの年、二人で彼に内緒でアマゾンの熱帯雨林に行ったこと。途中で彼女と本間夢は二日間はぐれてしまった。
結局、雨林で危険な目に遭って怪我をし、本間夢が彼女を救出し、キャンプ地まで背負って運んでくれたのだった。
「でも、彼女は引き返して私を救ったわ」
「ああ、彼女が言うには、お前がバカみたいに彼女が危険な目に遭ったと思って、あちこち探し回っていたからだと」本間壮佑は言った。
つまり、本間夢は見殺しにすることもできたし、彼女を雨林に放置して自然の成り行きに任せることもできたのに、彼女を救い出したのだ。