「藤崎奥様……」大島蓮美は藤崎奥様が本当に手のひらを返したように態度を変えるとは思わなかった。
しかし、藤崎奥様はすでに振り返って本邸に戻ってしまった。
石橋林人は他人の不幸を喜ぶように笑いながら近づいて言った。
「丸山奥様、丸山さん、この車の衝突の賠償は……」
「あなたの所属タレントが若くて綺麗だからって藤崎雪哉を誘惑して、本当に藤崎家に入れると思わないでよ。結婚もまだなのに、この藤崎夫人になれるかどうかもわからないんだから」
大島蓮美は藤崎奥様に怒りをぶつける勇気はなかったが、石橋林人のようなマネージャーに対しては遠慮する必要がなかった。
「そうですか、後ほど私の所属タレントにお伝えしておきます」石橋林人はわざとそう言った。
今は彼の所属タレントが藤崎家に嫁ぎたがっているのではなく、大社長が彼女を娶りたがっているのだ。
丸山みやこは既に中に入った藤崎奥様を見て、恨めしそうに歯を食いしばり、石橋林人に名刺を渡した。
「車が修理できたら、請求書を私に送って」
石橋林人は名刺を受け取り、丸山みやこ母娘に向かって笑いながら言った。
「では、お二人さようなら」
言い終わると、堂々と藤崎家の本邸に入った。
中に入るとすぐに、自分の所属タレントがリビングでスープを飲んでいるのが見え、藤崎奥様と藤崎お婆様が心配そうに彼女に、さっきの衝突で体のどこかに不調はないかと尋ねていた。
工藤みやびは石橋林人が入ってくるのを見て、急いで本題を切り出した。
「おばさま、何か持っていくものがあるとおっしゃっていましたが、会社にも戻らなければならないので」
藤崎奥様は一束の資料を持ってこさせ、言った。
「これは昨日あなたに話した、二つの子供服ブランドの資料とデザインスタイルよ」
「そしてこれは、本邸の近くにある空き家の7号館を改装する計画で、今後の正月や祝日にあなたたちが戻ってきたとき、本邸に住みたくなければそちらに住めるようにするの。どんな内装スタイルが好きか見てみて、決まったら手配するわ」
……
工藤みやびはそれを受け取った。昨日ちょっと話しただけなのに、今日もう資料を渡すなんて。
彼らの実行力は……恐ろしいほどだ。
「時間があるときに見てみます。今から会社に行かなければならないし、明日の朝早く飛行機に乗らなければならないので、先に失礼します」