工藤みやびは悩ましげに資料を置くと、まずは藤崎雪哉の説得工作をしなければならないと思った。
とにかく、今の半年はこの件に構っている余裕はない。
彼女は時間を確認し、マスクとピンク色の野球帽を取り出して言った。
「藤崎グループに直接送ってください。明日は空港で合流します」
石橋林人は取り入るような笑顔で尋ねた。
「あの...この車をもう数日使ってもいいですか?」
「明日にはもう出発するのに、どこに行くつもり?」工藤みやびは問い返した。
石橋林人はしょんぼりとため息をつき、明日は彼女と一緒に海外へ飛ぶことを思い出した。この車はもう使えないことは確かだった。
不満を抱えながら彼女を藤崎グループの駐車場まで送り、車を停めると注意を促した。
「明朝、飛行機に乗り遅れないでね」
「わかってるわ」工藤みやびはマスクと帽子をしっかりと着け、車から降りてエレベーターへと小走りに向かった。