第616章 社長、荒木さんは今日妊娠検査薬を買いました2

藤崎雪哉は天水ヴィラに戻ったが、一階で彼女の姿を見かけなかったので、使用人に尋ねた。

「みやびは帰ってきたか？」

「はい、二階にいます」と使用人は答えた。

藤崎雪哉はそのまま二階の主寝室へ向かった。スーツケースは部屋に置かれていたが、彼女の姿はなかった。

彼は閉まっている洗面所のドアを見て、ノックした。

「みやび」

中にいた工藤みやびは彼の声を聞くと、慌てて物を隠した。何も証拠が残っていないことを確認してからドアを開けた。

「帰ってきたのね」

藤崎雪哉は洗面所の中を一瞥した。「何をしていた？」

「トイレよ」と工藤みやびは無邪気な顔で言った。

藤崎雪哉の表情が険しくなった。「三浦星安が言うには、妊娠検査薬を買って帰ったそうだが、どういうことだ？」

「私は...」

工藤みやびは何かを思い出したように、唇を噛んで額に手を当てため息をついた。

石橋林人のバカ、彼女がちょっと言い忘れただけで、きっと三浦星安に買いに行かせたんだ。

三浦星安は藤崎雪哉が手配した人だから、間違いなく即座に彼に報告したのだろう。

「そうよ、買ったわ」

藤崎雪哉はじっと彼女を見つめた。「それはどこだ？」

「何が？」工藤みやびは少し戸惑った。

「人に買わせたもの」と藤崎雪哉は尋ねた。

工藤みやびはゆっくりと洗面所に戻り、バスタオルに隠していたものを取り出して洗面台に並べた。

そこに並んだ検査薬はすべて一本線を示していて、彼女は眉をひそめてため息をついた。

もう、なんてこと、また失敗。

あれだけ頑張ったのに、特に排卵期に行動して、生理も遅れているのに、結局妊娠しなかった。

あの時、池田輝の言うことを聞いて、先に妊娠前検査をしておけばよかった。

でも当時は、病院に行くと藤崎雪哉に知られてしまい、計画が実行できなくなると心配したので、検査を受けなかったのだ。

藤崎雪哉は検査結果を一目見て、彼女の落胆した表情を見た。

「この前も、わざとだったんだな」

「そう、わざとよ」

工藤みやびは妊娠計画の失敗で気落ちし、彼の言葉に頷いた。

藤崎雪哉は無力にため息をついた。「こんなこと、俺に相談しないのか？」

工藤みやび：「相談したわ、あなたが反対したから私はどうすればいいの？」

「俺が反対したから...お前は黙ってやるのか」と藤崎雪哉は尋ねた。