竹内永民は観客席からゆっくりと立ち上がり、ステージに向かって歩いてきた。
竹内薫乃はショックで顔色が変わり、これが良い兆候ではないと薄々感じていた。
しかし、番組はまだ生放送中で、会場と配信を見ている無数の視聴者がいるため、彼女は興奮したふりをして席を立ち、迎えに行くしかなかった。
「……お父さん」
幼い頃から実の父親ではないと知っていたので、彼女と竹内彩は竹内永民を父と呼んだことはなかった。
しかし、自分が竹内家成の隠し子ではないことを隠すために、彼女はさっき家族写真を出して、竹内永民が実の父親だと言ったばかりだった。
今となっては、この「お父さん」という呼び方をしないわけにはいかなかった。
司会者は竹内薫乃を見て、彼女の顔色が大きく変わったのを見て、実の父親と二年ぶりに会って興奮しているのだと思った。
そこで、急いで彼をステージに招き、座るよう案内した。
そして、大画面に映る家族写真を指さして尋ねた。
「竹内さん、この写真の人物はあなたですか?」
竹内永民は写真を見て、うなずいた。
「私です」
竹内薫乃は竹内永民を見つめ、興奮した様子で尋ねた。
「お父さん、いつ帰ってきたの?どうして私に一言も言ってくれなかったの?」
彼は南部にいるはずじゃなかったの?
なぜ戻ってきて、なぜここに現れたの?
「私があなたと何を話すことがあるというのかね」竹内永民は可笑しそうに尋ねた。
竹内薫乃はそれを聞いて、急いで言った。
「お父さん、わかってる、私たちとお母さんがあなたから離れたことをまだ恨んでるんでしょう。でもあなたは私のお父さんで、永遠にそうなの……」
石橋林人は冷ややかに笑った。竹内薫乃の反応の速さは見事だな。
彼が人をステージに呼んだだけで、まだ何も言っていないのに、彼女はもう「お父さん」と親しげに呼んでいる。知らない人が見たら本当に彼女の父親だと思うだろう。
しかし、竹内永民はこんなに孝行な娘を前にしても、顔には当惑の色しか浮かんでいなかった。
「竹内さん、あなたがそう呼ぶのは……誤解を招きますよ」
竹内薫乃は歯が砕けるほど憎らしく思った。この野郎、私の立場を崩そうとしているのか?
「お父さん、どうしてそんなこと言うの?」
彼女はそう言いながら、カメラを避けて竹内永民に目配せした。