赤い雨

朝の7時15分。藤原刃蓮は洗面所の鏡の前に立ち、右手首内側の炎の紋章がまた鈍く疼き始めていた。記憶がある頃から存在していたこの刻印が、最近ますます頻繁に発作を起こすようになっていた。

「また曇りか…」

蛇口をひねり、冷たい水で顔をパシャパシャと洗う。鏡に映った少年はやや乱れた黒髪で、左目の下に小さな泣きぼくろがある。詰襟の学生服の袖口をわざと長く引き下ろし、奇妙な形をした刻印を隠していた。

「刃蓮!遅刻するわよ!」階下から祖母の声が響く。

「はい!」急いで鞄を掴み、鎮痛剤をポケットに押し込む。仏壇の前で両親の白黒写真に手を合わせる時、三年前のあの事故を思い出した――あの日両親を奪った車禍で、初めてこの紋章が本当の灼熱感を放ったのだ。

雨上がりの空気が湿った土の匂いを運んでくる。刃蓮は水溜りを避けながら商店街を抜け、コンビニ前で同級生の九条綾に出会った。

「おはよう、藤原君」綾が手にしたイチゴミルクを振りながら、「今日もギリギリセーフね」

「向かいのマンションに住んでる九条さんが言う?」刃蓮が差し出されたミントキャンディを受け取ると、包装紙が朝日にきらめいた。

綾が突然近づいてきた:「また手が痛んでる?」

思わず袖口を握り締める。幼馴染のこの子はいつも恐ろしく鋭い。「昨日バイトで荷物運んだから筋肉痛なだけ」

「嘘」綾が彼の手首を突つく「あなたが嘘をつく時、右手の薬指が震えるの」

チャイムが刃蓮の窮地を救った。数学の授業中、窓外の次第に暗くなる空をぼんやり眺めていた。最近のニュースで頻繁に流れる「異常気象警報」、夜間のパトロールが増えた警察官――全てが三年前のあの日を思い出させた。あの鉛色の空、鉄錆のような生臭い空気を。

「藤原さん、この問題に答えてください」

指名されて慌てて立ち上がると、右手がインク瓶をひっくり返してしまった。黒い液体が机の上に広がり、不気味な紋様を形成する。一瞬、インクの中に炎の形が浮かんだような気がした。

昼休み、屋上の風に早春の寒さが残っていた。刃蓮は焼きそばパンを頬張りながら、綾が昨夜見た心霊番組の話を聞いていた。

「…だからね、あの『都市伝説』ってやつ、実は全部…」綾の声が突然途切れた。彼女が刃蓮の背後を見つめ、顔から血の気が引いていく。

刃蓮が振り向くと、遠くの空に紅蓮色の裂け目が走っていた。無形の刃で切り裂かれた傷口のようだ。しかし瞬きをすると、そこには普通の雨雲しかなかった。

「何か見えた?」

「何でもない」綾が作り笑いを浮かべた。「そうだ、放課後新しくオープンしたスイーツ店に行かない?」

最終授業の現代社会。教師が気候変動の経済への影響を解説している最中、蛍光灯がチカチカと点滅し始めた。右手首に鋭い痛みが走り、見下ろすと炎の紋章が微かに赤く光っている。窓越しに、校庭の雀たちが一斉に同じ方向へ飛び立つのが見えた――何かから逃げるように。

下校チャイムが鳴る頃、空は濁った暗紅色に変わっていた。刃蓮は綾の誘いを断り、アルバイト先の書店へ向かう。浅草寺近くの商店街を抜ける時、腐った甘い匂い――古びた果物と鉄錆が混ざったような臭いが鼻を刺した。

路地裏の影で何かがうごめいていた。刃蓮が足を緩めると、排水溝蓋の上に灰白色の生物が這いつくばっているのが見えた。その生物は犬科動物に似た輪郭ながら、背中に三本の骨棘が突き出し、尾の先端が二股に分かれ、地面の暗紅色の液体を貪り食っていた。

生物が振り向いた時、刃蓮の血液が凍り付いた――顔があるべき場所には、螺旋状の歯が並ぶ円形の口器しかなかった。

右手が突然燃えるような痛みに襲われた。紋章の放つ赤い光が湿った壁面を照らす。怪物が動作を止め、ゆっくりと彼の方向へ向き直った…