第29章 危機の瞬間!

神崎弥香はしばらくドアをノックしたが、誰も出てこなかった。どうやらあの男は不在のようだ。

彼女は家に戻り、身につけていたハイジュエリーセットを箱に戻し、三神老夫人からもらった贈り物と一緒に大切にしまった。

シャワーを浴びてパジャマに着替えると、佐藤浩二からメッセージが届いた。

[弥香、帰国したよ。明日の夜、科学大学の同窓会があるんだけど、来ない?]

神崎弥香は一瞬固まり、返信する前に、彼からさらにメッセージが届いた。

[明日の夜6時、月光楼806号室だよ。みんな何年も会ってないから、君も来てくれるといいな。]

神崎弥香の視線は遠くへ漂い、心に波が立ち始めた。

彼女が考え事をしている時、神崎貴美子から電話がかかってきた。

「弥香、翔から聞いたわ。三神老夫人があなたをとても気に入って、贈り物までくれたそうね。あなたは本当に私たち神崎家の福の星ね」

神崎弥香は眉をひそめた。神崎翔は彼女のことを「厄災」と言ったのに、神崎貴美子は「福の星」と言う。親子なのに、神崎貴美子の深い腹黒さを神崎翔は少しも受け継いでいないようだ。

「弥香、一ヶ月後に海浜市で第13回香道大会が始まるわ。あなた以前、香を作って賞をいくつか取ったわよね。今回の大会に参加する気はない?」

神崎弥香は困惑した。大学受験の志望校を決める時、神崎貴美子は彼女が香作りを選んだと知ると、大変怒っていた。

結局、彼女は妥協せず、むしろ松本優が彼女の意向に従って経済管理を学んだのだった。

神崎弥香は眉を上げ、非常に意外そうに尋ねた。「お母さん、私がこれを学ぶのをずっと反対していたのに、どうして急に態度が変わったの?」

電話の向こうの神崎貴美子は笑った。「時と場合によるのよ。知らないかもしれないけど、今回の香道大会は三神家が主催するの。三神老夫人はこの大会をとても重視しているわ。もしあなたが参加して入賞できれば、私たち神崎家も三神家の前で顔を売る機会になるし、交流も増えるでしょう」

神崎貴美子はまた彼女を利用して三神家と繋がりを持とうとしている。神崎弥香は計画を思いついた。「いいわ、お母さん、参加します!」

神崎弥香があまりにもあっさり承諾したので、神崎貴美子はしばらく反応できなかった。

「弥香、そんなにすんなり承諾するなんて?」