第113章 悪意を持つ男

川辺遥真はまだ病気だったが、彼が尋ねてきたので、神崎弥香は彼に嘘をつきたくなかった。彼女は決意に満ちた目で答えた。「はい、私は彼のことが好きです」

神崎弥香の率直な答えは川辺遥真の心を刺した。彼の瞳の奥に一瞬暗い影が過った。傷ついた表情で彼は尋ねた。「彼は明らかに横暴で理不尽なのに、君は一体どこが僕より良いと思うんだ？」

神崎弥香は三神律のことを思い浮かべ、顔の表情が思わず柔らかくなった。「彼は執着心が強くて、横暴で、独占欲も強い。彼には多くの欠点があるけど、それでも私は好きになってしまったの。感情のことって本当に説明しづらいものね。川辺遥真、あなたはとても素晴らしい人だから、きっといつか本当にあなたに合う素敵な女の子に出会えるわ！」

「神崎弥香、もし僕が他の誰も欲しくない、君だけが欲しいと言ったら？」川辺遥真は切実に尋ねた。

「私の心はもう三神律でいっぱいで、他の人を入れる余地はないの。川辺遥真、本当にごめんなさい、あなたの気持ちに応えられなくて」

川辺遥真の瞳は一瞬にして光を失った。彼は唇の端に自嘲気味な笑みを浮かべた。「これは君のせいじゃない。責めるとしたら自分自身だ。君に好かれるだけの力がなかった」

神崎弥香はその場に凍りついたように立ち尽くし、どう彼を慰めればいいのか分からなかった。事ここに至っては、何を言っても空虚に思えた。

川辺遥真の体はまだ静養が必要で、医師は神崎弥香に10分間だけの面会時間を与えた。彼女が立ち上がって帰ろうとしたとき、川辺遥真は切望するような表情で彼女を見つめ、優しく尋ねた。「神崎弥香、明日もまた会いに来てくれる？」

「うん」

「嬉しいよ。君の心は僕のものじゃなくても、君に会えるだけで僕は満足だ！」

川辺遥真の目は少し赤くなり、彼は懸命に神崎弥香に向かって微笑んだが、その苦い笑顔は目には届いていなかった。

神崎弥香の唇が微かに震え、目には自責と罪悪感の色が浮かんだ。彼女は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼女は唇を噛み、何か言いたげな様子だった。

しかし結局、彼女は何も言わず、黙ったまま集中治療室を後にした。

川辺遥真はまだ集中治療室で二日間の経過観察が必要だった。医師によれば、この二日間の状態が安定し、他の突発的な状況が起きなければ、彼は一般病棟に移ることができるという。