第079章 あなたのせいじゃない

高橋優奈は当然彼女のことを覚えていた。心の中では好意を抱くことはできなかったが、それでも彼女は優しく挨拶した。「雪村さん、何かご用ですか?」

雪村悦子は肩をすくめ、高橋優奈の視線を避け、林田陽子の方向に向かって無邪気に聞き返した。「私が何か用があると言いましたか?」

林田陽子、「……」

高橋優奈、「……」

これはちょっと意地悪だった。

しかし高橋優奈は我慢した。彼女は何も言わず、視線を戻して自分の仕事を続けた。

営業部の入り口からすぐにまた声が聞こえてきた。今度は彼らの部長の声だった。「雪村さんは私の部署で働きます。ご安心ください」

部長が話しかけている相手の返事を聞く前に、雪村悦子はすでに急いで駆け寄り、甘い声で叫んだ。「光秀お兄さん〜」

これで、部署全体の視線が自然と雪村悦子に続いて見ていた。

高橋優奈は綾瀬光秀を見た。男性の優しい視線は雪村悦子の顔に留まり、唇の端には甘やかすような弧を描いていた。

もし今この目で見ていなければ、彼は生まれつき彼女に対して冷たい態度だけを持っていると思っていただろう。

このような差を見るのは初めてではなかったが、突然理解した——

綾瀬光秀が優しく接したいと思う人は、結局彼女のような名ばかりの妻ではないのだ。

高橋優奈は平然と視線を外した。

部長もタイミングよく口を開いた。「皆さん、少し仕事を中断してください。紹介します。こちらは雪村さんです。今後、彼女は私たちの部署で働くことになります」

雪村悦子はとても礼儀正しく営業部の社員たちにお辞儀をした。

立ち上がった後、彼女はまず部長を見た。「山田部長、これからは私はあなたの部下です。雪村悦子と呼んでください」

言い終わると、皆を見た。「皆さん、こんにちは。雪村悦子です。大学でもマーケティングを専攻していました。皆さんと一緒に働けることを嬉しく思います」

営業部に多くの社員がいて、しかも綾瀬社長自ら紹介したので、当然すぐに気の利く同僚が声を上げた。「雪村さん、営業部へようこそ」

「ようこそ、ようこそ」

続いて拍手が起こった。

雪村悦子はこの拍手の中、高橋優奈の後ろの席に立ち、質問するような口調で高橋優奈に尋ねた。「ここを使わせてもらいますね。この場所は誰も使っていないんですよね?」