第170章 機嫌が悪い

綾瀬瑞樹の無理な要求に対して、藤原羽美は理不尽だと感じながらも、彼とこれ以上争うことはしなかった。

彼女は男が投げてよこした携帯電話を手に取り、その長い説明文を見つめて読み進めた。

下にスクロールする際、指が誤って携帯のボタンに触れ、メイン画面に戻ってしまった……

女優の久保泉の写真が目に飛び込んできた。

藤原羽美は口元を少し動かして言った。「久保泉が好きなの?」

運転中の男はそれを聞くと、表情が変わり、すぐに藤原羽美の手から携帯を奪い取り、目に不満の色を浮かべた。「なぜ勝手に見るんだ?」

「さっきボタンに触れてしまって、それでメイン画面に戻っちゃったの」藤原羽美は説明した。

綾瀬瑞樹は彼女を無視し、まだ機嫌が良くなさそうだった。

藤原羽美は小さく笑い、彼女は本来おせっかいな人間ではなかったが、先ほどの男のしつこい態度を思い出し、目を輝かせて彼を見つめながら、わざと言った。「久保泉は確かに女優だけど、さっきの説明を見ると、あなたもすごい人みたいね。同じ業界にいるなら、会う機会も多いでしょう。好きなら追いかければいいじゃない?」