第313章 彼に頼めば……可能性はあるかもしれない

根岸詩音がこう言った時、彼女はオフィスチェアに座っていた。彼女の視線は高橋優奈の顔に落ち、唇が動くたびに、頬には浅くかすかな笑みが浮かんでいた。

まったく心からではない。

高橋優奈は彼女に近づき、彼女の前に立ち止まった。「どうしてこんなに突然なの?」

根岸詩音は高橋優奈を直視せず、目を伏せながら意識的か無意識的かわからないように頷いた。「うん、今氷室直人と婚約するのが一番いいタイミングなの。私にとっても、根岸家にとっても」

このような態度と反応、そして興奮も喜びもない口調から、氷室直人との婚約が根岸詩音を喜ばせることではないと簡単に判断できた。

高橋優奈はさらに彼女に近づいた。「詩音、婚約はあなたの人生の大事なことよ。どうしてタイミングで決めるの?大切なのはあなたの気持ちでしょう。あなたは氷室直人のことが好きなの?」