第355章 妻を溺愛する狂人

昼食時。

高橋優奈と林田陽子は一緒に社員食堂へ行き、二人は食事を取って座りながら、時々会話を交わしていた。

食事が半分ほど進んだとき、周りから同僚たちのひそひそ話が聞こえてきた。

「見て見て、綾瀬社長が来たわ……」

「営業部の高橋主任を見に来たのかしら？」

「かもね。綾瀬社長って意外と甘えん坊なのね。年が明けたばかりで、半日も離れていないのに、もう社員食堂まで奥さんを探しに来るなんて。綾瀬社長って妻溺愛魔王なんじゃない？」

「うーん……その光景を想像すると、私の心臓が爆発しそう」

「……」

声はそれほど大きくなかったが、高橋優奈の耳には届いていた。

林田陽子にも。

高橋優奈、「……」

林田陽子も食事の動きを止め、二人一緒に見た方向を見た——

確かに綾瀬光秀だった。

彼は優雅に長い脚を運び、平然と食事を取り、そして高橋優奈の方向へ歩いてきた。

この状況を見て、林田陽子は急いで視線を外し、高橋優奈に言った：「優奈、私もう食べ終わったから、先に行くね」

高橋優奈が返事をする前に、林田陽子は立ち上がって去っていった。

自分の食器も進んで持って行った。

高橋優奈はその慌てた姿を見て、少し悔しげに文句を言った：「全然食べ終わってないじゃない、まだ半分もあるのに」

言葉が終わるか終わらないかのうちに、綾瀬光秀は彼女の向かいに座っていた。

高橋優奈は顔を上げて彼を見た：「綾瀬さん、どうしてここに？」

男性は自分の食事トレイに目配せした：「明らかじゃないか？」

「どうして個室で食事しないの？」

「今日は私の食事を担当するシェフたちが急に休みを取った。家の用事があるとかで……だから社員食堂に来たんだ」

高橋優奈は半信半疑：「そう、じゃあ早く食べて」

彼女はそう言うと頭を下げ、自分の食事を続けた。

しかし男性は少しも動く気配がなく、じっと高橋優奈を見つめていた。

傍らでまた声が聞こえてきた——

「綾瀬社長、どうして食べないの？ずっと高橋主任を見てるわ」

「まあ、あの眼差しすごく情熱的」

「だめだめ、私の心が溶けちゃう……」

高橋優奈はこの一連の声で、ますます居心地が悪くなり、無視することもできなくなった。ついに顔を上げ、左頬にかすかなえくぼを見せながら、目の前に座る男性に微笑んだ：「綾瀬さん、食べてください」