根岸詩音は完全に言葉を失った。
彼女はもう窓際に立っていることをやめ、諦めた表情で足を上げてソファの方へ歩き、座り込んだ。
河合航平は外を一瞥し、眉を少し上げると、すぐに彼女の後を追った。
……
メイン会場。
元々くつろいでいた来賓たちは今や頭を寄せ合って話し合っていた。
様々な議論の中で、最も多かったのは根岸詩音への不満と疑問だった。
高橋優奈と綾瀬光秀は群衆の中の目立たない場所に立っていた。彼女は他の人々が自分の友人について悪意のある言葉で議論しているのを聞きながら、顔中に不快な表情を浮かべていた。
女性は綾瀬光秀の方を向いて言った。「綾瀬さん、河合さんが詩音をどこに呼び出したか知っていますか?」
声を聞いた男性は彼女を一瞥したが、その瞳には波風一つなく、何も言わなかった。
高橋優奈は、先ほど河合航平が根岸詩音と電話していた時、実は綾瀬光秀が彼の隣に立っていたことを知らなかった。だから話した内容は、当然彼もはっきりと聞いていたのだ。
どこに行ったのか?
彼は知っていたが、だからといって高橋優奈に教えるつもりはなかった。
彼が黙っているのは、河合航平がどんな人物かを理解しているからだ。彼は無茶はしない。時間になっても現れないのは、おそらく彼の意図通りに物事が進んでいるからだろう。結局のところ、彼には根岸詩音のためにすべてを解決する能力があるのだから。
高橋優奈は綾瀬光秀が反応を示さないのを見て、彼も知らないのだと思い、それ以上何も言わなかった。
いつの間にか、氷室直人が彼女の方へ歩いてきた。
最初に彼を見たのは綾瀬光秀だった。彼は自分の前に立つ女性を一瞥し、そして立ち止まった氷室直人を見上げ、薄い唇を動かした。「氷室様。」
その声を聞いて、高橋優奈は一瞬呆然とし、それから振り返った——
氷室直人の表情には明らかな喜びも悲しみもなかったが、普段と比べると笑みが少なかった。
彼は高橋優奈を見て口を開いた。「君は詩音の一番の友達で、メイクの時もメイクルームで彼女に付き添っていたよね。だから彼女がどこに行ったのか、知っているはずだろう?」
高橋優奈は唇を噛んだ。「氷室様、それは…私も本当に分かりません。でも信じてください、詩音は逃げるつもりなんてありません。何か問題に遭遇したのかもしれません。」